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第71話 視線の温度

流れは静かでも、

気持ちは動いていることがある。


言葉にしないまま伝わるものほど、

あとから強く残る。

朝の空気は刺すように冷たかった。


白い息が先にほどける。


指先の感覚が少し遅い。


光は低く、影が長い。


校門の前に出ると、空気が澄んでいた。


朝日がレンの肩に落ちている。


光を受けるだけで、少し現実から浮いて見える。


同じ場所にいるのに、少し遠くに感じる。


目が先に引き寄せられる。


追ってはいけないのに、追ってしまう。


好きな人を遠くから想う芝居だった。


言葉はない。


目が、先に向いてしまう役。


カメラが回る。


視線だけが動く。


止める前に、気持ちが先に行く。


ふいに、レンがこちらを見る。


目が合う。


一瞬。


反射で逸らした。


鼓動が強く鳴る。


「カット」


声が入って、世界が戻る。


何が正解だったのか分からないまま、息だけ整えた。


足元で落ちたことに気づかなかった。


レンが先に拾っている。


白い手袋だった。


歩幅を合わせる。


横に来る。


差し出す。


「視線は強いのに、手元は無防備」


演技の話にも聞こえる。


違う意味にも聞こえる。


指先が冷たい。


レンはポケットからカイロを出す。


新しい袋を破る。


温まる前のそれを、そのまま渡す。


「手、冷えてる」


声は変わらない。


距離も変わらない。


なのに、呼吸だけが近い。


監督が言う。


「今の、そのままがいい」


自分では分からない。


レンが続ける。


「慣れてないのが、ちゃんと主人公に見える」


評価の言葉のはずなのに、


体温の方が先に上がった。


少し間が落ちる。


空気が静かになる。


レンがもう一言だけ言う。


「あの視線、好きな人を見る目だった」


役の話のはずだった。


そう思うしかないのに、


心臓だけが正直だった。


鼓動だけが、まだ戻らなかった。

言葉より先に、

視線が本音を連れてくることがあります。


本人よりも先に、

心臓が気づいてしまうことも。

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