第6話 夜明けの重さと、教室の針
夜は明けたのに、心はまだ夜の底にいる。
そんな朝から始まるお話です。
昨日の嵐が嘘みたいに、
朝日はやけにまぶしかった。
けれど――
ノアールの身体は、まだ夜の重さを引きずっている。
頭がガンガンする。
足も、胸も、全部がだるい。
「ノアール……ほんとに行くの?」
ショコラが心配そうに覗き込む。
「顔色、ひどいよ。
今日は休んだほうがいいよ」
「行く」
ノアールは短く言い放った。
「でも――」
「行くって言ったら、行くの!」
ショコラは驚いたように目を見開く。
(もう……ほっといてよ)
靴音を強く響かせ、
ノアールは玄関を出た。
(私だって……
本気を出せば、ちゃんと学校に行ける)
(クラスメイトとだって、
普通に話せるようになれる)
(また……
アイドルだって、できるかもしれない)
全部、強がりだってわかってる。
それでも――
(心配されるの、悔しいから)
胸の奥が、
硬い針で刺されたみたいに痛む。
(私、ひとりでも……大丈夫なんだから)
ノアールは一度も空を見上げずに歩き続けた。
――視界に光が入ったら、
眩しすぎて泣いてしまいそうだったから。
教室。
ノアールは深く息を吸い、
そっと椅子から立ち上がった。
(私だって……できる)
「あの……これ……」
プリントを差し出した、その瞬間。
相手は、聞こえなかったみたいに
視線を逸らし、さっと離れていく。
ノアールの手だけが、
宙に取り残された。
(なんで……)
胸の奥が、またズキンと痛む。
授業。
先生が言った。
「じゃあ、わかる人?」
いつもなら、手なんて挙げない。
けれど今日は――
負けたくない気持ちが、先に動いた。
ノアールの手が、
震えながらも上がる。
教室がざわつく。
「え、ノアールが?」
「珍しくない?」
視線が突き刺さる。
指名される。
「……えっと……その……」
言葉が、喉の奥で絡まって出てこない。
沈黙が落ちる。
次の瞬間、
どこかから小さな笑い声が漏れた。
胃がひっくり返るような感覚。
(なんで……
どうして、何にもできないの)
――その瞬間。
ゴゴッ……!!
教室全体が大きく揺れた。
机が鳴り、誰かが悲鳴を上げる。
「まただよ……」
「ノアールが動くと、いつもこう」
「マジで厄病神じゃん」
「関わらないほうがいいよね」
その言葉は、
刃みたいにノアールの胸を切り裂いた。
ノアールは、教室を飛び出した。
行き先なんて考えない。
ただ、逃げた。
辿り着いたのは、
誰もいない体育館。
静けさだけが、そこにあった。
「……いやだ……」
声が震える。
「いやだよ……!!」
叫びが、広い空間に反響する。
涙が床に落ちた、その時――
ドンッ!!
大地が唸った。
天井の照明が大きく揺れ、
窓ガラスが不気味な音を立てる。
膝が崩れ落ちた。
視界が白く霞む。
(ごめん……
だれか……)
意識が、闇に沈んでいった。
「ノ、ノアール!?」
保健室の先生の声。
倒れていたノアールの身体は、
冷たく、ぐったりとしていた。
遠くで、
救急車のサイレンが鳴り響く。
――その知らせは、
ショコラとブランシュの元にも届く。
物語は、再び――
あの夜、
0章の屋上の光景へと繋がっていく。
※次話へつづく
読んでくださり、ありがとうございます。
この出来事は、ノアールの運命に深く関わっていきます。




