第58話 それぞれの答えの前で
目が覚めても、
すぐに心が追いつくわけじゃない。
午後の光は、
やわらかかった。
家の中は、
静かだった。
無理に音を立てないような、
そんな空気だった。
最初に起きたのは、
ソレイユだった。
まぶたを開けて、
少しだけ天井を見た。
場所を思い出すまでに、
時間がかかる。
ノックは、しない。
ショコラが、
そっと扉を開ける。
「おはよう」
声は軽い。
いつも通りの調子だった。
ソレイユは、
小さくうなずく。
「水、飲める?」
コップを差し出す。
受け取る手は、
まだ少し力が弱い。
「……ありがとう」
かすれた声だった。
ショコラは、
そこで本題に入らない。
先に、沈黙を置く。
それから、
ベッドの横に腰かける。
「ねえ」
視線を合わせる。
「これから、どうしたい?」
問いかけは、
静かだった。
すぐに答えを求めない。
「続ける道もある」
「休む道もある」
指先で、
毛布の端を整える。
「もし、離れるなら」
少しだけ間を置く。
「今受けている約束だけ、
ちゃんと終わらせてから」
責めない声だった。
「投げないで終わる」
「それだけで、十分」
ソレイユは、
黙って聞いている。
ショコラは続ける。
「ノアールはね」
声が少しだけやわらぐ。
「私たちでも守れる」
「あなた一人の役目じゃない」
沈黙が落ちる。
ソレイユは、
視線を落としたまま言った。
「……少し、考えたい」
ショコラは、
すぐにうなずいた。
「それでいい」
それ以上は言わなかった。
ノアールが目を覚ましたとき、
ルナは、
もう丸くなっていた。
扉が少し開く。
ショコラが、
中をのぞく。
「起きた?」
ノアールは、
ゆっくり起き上がる。
まだ少し、
現実が遠い顔だった。
ショコラは、
椅子を引いて座る。
「ずいぶん、強くなったね」
評価ではなく、
事実として言う。
間を置く。
「ちゃんと、前に進んでる」
ノアールの指が、
毛布をつかむ。
ショコラは続ける。
「今まで、ありがとう」
短く言う。
「でもね」
声がやわらぐ。
「ずっと一人でやる役じゃないの」
ベッドの端を、
軽く叩く。
「無理は、交代制」
ノアールの目が、
少し潤んだ。
ショコラは見ないふりをする。
「自分を責めるのは、
今日はお休み」
ルナが、
小さく鳴いた。
ルミエールが目を覚ましたとき、
ブランシュは、
窓の近くにいた。
光を、
少しだけ調整している。
振り向く。
「体は?」
短い確認だった。
ルミエールは、
小さくうなずく。
ブランシュは、
椅子を近づける。
「これから、どうしたい?」
急がせない声。
「続けてもいい」
「止まってもいい」
まっすぐ見る。
「離れるなら」
「約束した分だけ、
終わらせてから」
淡々としていた。
「それで十分」
少しだけ間を置く。
「ノアールは、
私たちでも守れる」
「あなたが全部、
背負う必要はない」
ルミエールは、
深く息を吐いた。
そのとき、
廊下で気配がした。
扉が少し開く。
ノアールだった。
目が合う。
言葉は出ない。
でも、
逸らさなかった。
ほんの少しだけ、
空気が変わった。
答えは、
急がなくていい。




