第56話 残された光
朝は、
必ず、やってくる。
それぞれの場所で、
同じ朝が来ていた。
答えは、出なかった。
ただ、
力が抜けていく感覚だけが、
残っていた。
ショコラとブランシュが、
ソレイユを連れてきた。
ルミエールは、
部屋から出てこなかった。
ノアールは、
ルナを抱いて、
「おかえり」と言った。
ソレイユは、
うつむいたまま、
小さく、
「……ただいま」
と答えた。
ショコラは、
何も言わずに、
ソレイユを部屋まで連れていった。
ブランシュは、
ルミエールの部屋の前で足を止める。
「……起きてる?」
返事は、なかった。
ブランシュは、
紙を一枚取り出し、
ドアの下の隙間に、そっと差し込んだ。
「困ったり、
相談したいことがあったら、
ここに書いてある番号に電話して」
「じゃあ、ノアール。よろしくね」
それだけ言って、
二人は帰っていった。
家の中は、
急に静かになった。
ソレイユも、
ルミエールも、
部屋にこもったまま、
出てこなかった。
ノアールは、
しばらく、その場に立っていた。
昨日までは、
思考が、
同じところで止まっていた。
——私には関係ない。
——恋愛は禁止。
——二人の衝突は、止められなかった。
それ以上、
考えないようにしていた。
でも、
今日は違った。
考え始めると、
自分の方へ、
少しずつ、矢印が向いていく。
ノアールは、
それを、言葉にしなかった。
胸の奥に、
黒い影のようなものが、
じっと、溜まっていく。
それを、
振り払おうとした。
ノアールは、
ルナを連れて、
ソレイユの部屋へ向かった。
いつもあるはずの輝きが、
どこか、違う色に見えた。
ルナが、
遊びたいと鳴く。
ノアールは、
勇気を出して、
それを伝えた。
「……一人にして」
低く、冷たい声だった。
その一言が、
ノアールの奥に、
深く、刺さる。
抑えていたものと、
ソレイユの中にあったものが、
触れてしまった。
次の瞬間、
意識が、遠のいた。
ルナが、走った。
ルミエールの部屋の前で、
異常な声を上げる。
何度も、
扉を引っかく。
ルミエールは、
最初、それを無視していた。
それでも、
鳴き声は止まらなかった。
耐えきれず、
扉を開ける。
ルナは、
ソレイユの部屋の方を見ていた。
黒い何かが、
そこから、滲み出している。
ルミエールは、
走った。
部屋の中で、
ノアールとソレイユが、
倒れていた。
一瞬、
体が、動かなかった。
どうしていいのか、
分からなかった。
気づいたときには、
電話をかけていた。
「……助けて」
ブランシュとショコラが、
同時に来た。
ブランシュは、
ルミエールの前に立つ。
何も言わず、
ただ、視線を合わせた。
ショコラは、
ノアールとソレイユのそばにしゃがみ込み、
呼吸を確かめる。
誰も、
すぐには動かなかった。
ブランシュは、
手のひらを開いた。
その上に、
リンゴほどの小さな光が浮かぶ。
少し遅れて、
ショコラの手の上にも、
同じくらいの光。
そして、
ルミエールの手の上にも。
一つ一つは、
とても小さな光だった。
それでも、
光は、
互いに引き寄せられるように、
近づいていった。
集まったとき、
光は、
祈りの形をとるように、
ゆっくりと、
大きくなっていった。
大きくなった光が、
ソレイユの方へ流れる。
くすんでいたオレンジの髪が、
少しずつ、
本来の明るさを取り戻していく。
ソレイユは、
何が起きたのか、
分かっていなかった。
それでも、
何もなかったかのように、
その場に立っていた。
ノアールは、
まだ、動かない。
ブランシュが、
一歩、前に出る。
「手伝って」
それだけだった。
ソレイユは、
一瞬、戸惑ってから、
何も聞かずに、うなずく。
ソレイユとルミエールの呼吸が、
自然と、同じ速さになる。
手の上の光が、
円を描いた。
小さかったはずの魔法陣は、
形を保ったまま、
ゆっくりと、
大きくなる。
それは、
押さえつけるためのものではなかった。
結び目に、
指をかけるように。
ノアールの闇は、
抵抗することなく、
少しずつ、
ほどけていった。
魔法陣が、
音もなく消える。
その瞬間、
ノアールの手が、
わずかに動いた。
ノアールは、
息を取り戻す。
しばらくして、
まぶたが動き、
目を開けた。
視界の奥で、
ぼんやりと、
みんなの姿が見えた。
その中で、
いちばん最初に、
ソレイユの色が分かった。
それを見て、
ルミエールは、
ようやく、力を抜いた。
足に、
力が入らなくなる。
立っていられず、
その場に、崩れ落ちる。
俯いたまま、
涙が、
静かに、零れ落ちた。
ブランシュは、
何も言わずに、
ルミエールの背中に、
そっと、手を置いた。
温かい太陽の光が、
窓から、差し込んでいた。




