第55話 雨音の夜
同じ夜に、
それぞれが、違う場所で過ごしていました。
最初のうちは、
「ひとりで帰る」と言っていただけだと思っていた。
少し時間を置けば、
いつも通り家に戻ってくるはずだと。
けれど——
もう、とっくに家に着いていていい時間なのに、
ソレイユは帰ってこなかった。
きっと帰ってくる。
そう信じて、ただ待っていた。
時間だけが、静かに過ぎていった。
ルミエールは、同じ場所を何度も行き来していた。
あの言い方でよかったのか。
もっと違う言葉があったんじゃないか。
あの時――
夕日の中で、二人きりになった。
分かっていた。
それでも、せめて今だけはと思った。
その「今だけ」が、
一番残酷だった。
夜も深くなった頃、
ノアールのスマホが短く震えた。
《ソレイユ、うちにいるから心配しないで》
《今日は泊まらせるね》
ブランシュからの、簡単なメッセージだった。
それだけで十分だった。
無事だと分かって、ようやく息ができた。
けれど——
安心しても、眠れるわけじゃなかった。
その夜、
ノアールもルミエールも、ほとんど眠れなかった。
事務所からの帰り道、
ショコラは、雨の中に座り込んでいる少女に気づいた。
街灯の下で、
オレンジ色の髪が濡れて光っていた。
それだけで、分かった。
「……あら」
ショコラは何も聞かず、傘を差し出した。
「こんなに濡れちゃって。風邪ひくわ」
「とりあえず、うちに寄りましょ」
返事を待たず、隣に立って歩き出した。
それだけだった。
マンションの部屋に入ると、
温かい空気に包まれた。
濡れた服は洗って、部屋に干した。
ショコラは甘いホットココアを用意する。
「今日はもう遅いし、
無理しなくていいわ」
「うちに泊まって大丈夫よ」
「ゆっくり休んで」
それだけ言って、深くは踏み込まない。
代わりに、
そっと膝掛けをかけた。
ソレイユは何も言わなかった。
けれど、張りつめていた身体が、少しだけ緩んだ。
誰かに頼りたかった。
でも、理由を聞かれるのはつらかった。
その距離が、ちょうどよかった。
姉たちの静かな優しさに包まれながら、
ソレイユは、言葉を使わずに夜を過ごした。
雨音は、もう気にならなかった。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。




