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第54話 光の代償

成功は、終わりではなかった。

それは、新しい扉が開いた合図だった。


けれど――

扉の向こうにあったのは、

思っていたよりずっと冷たい世界だった。

ショッピングセンターでの成功から数日後。

三人は事務所へ呼び出されていた。


ソレイユは少し期待した顔で歩いていた。

「次はもっと大きなステージかな?」

そんな希望が、胸の奥で小さく跳ねていた。


けれどルミエールの表情は静かだった。

何かを予感しているように。


社長室。

暖房の効いた乾いた空気。

机の向こうで、社長は淡々と告げた。


「LUMISORAの評価が上がり始めている。

これから本格的にプロジェクトを拡大する」


三人は黙って聞く。


「ただし条件がある。

今日から一切の恋愛は禁止だ」


ソレイユの瞳がわずかに揺れる。


「君たちはもう子供じゃない。

市場に並ぶ“商品”だ。

隙を見せれば一瞬で潰される。

それがこの業界だ」


ノアールは特に驚いた様子もなく、静かに受け止めていた。

恋愛禁止――自分には関係ない。

そう思っただけだった。


ソレイユは何も言わなかった。

ただ、胸の奥に小さな棘が刺さったまま抜けない。


社長室を出る。


廊下でアンナとすれ違う。

彼女は聞こえるように笑った。


「あら、恋愛禁止?

そもそもあの子たち、お子様すぎて恋愛なんて縁ないでしょ。

社長も心配しすぎよねぇ」


高い笑い声が遠ざかる。


三人は何も言わず、事務所を出た。


外に出ると、空は曇っていた。

迎えの車が近くで待っている。


その途中。

人のいない場所で、ルミエールが口を開く。


「ソレイユ。社長の言葉は本気よ。

これからは周囲の目が増える。

悠斗くんと会うことも、家に招くことも――

慎重にならなければならないわ」


ソレイユが立ち止まる。


「……なんで?」


「なんでルミエールまで社長と同じこと言うの?」


「ルミエールの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかった」


「ひどいよ」


「こないだまで、応援してくれてたじゃない。

家にも呼んでくれて、二人きりにもさせてくれた。」


「私はあの時、最高に気持ちが燃え上がって、

もうこの気持ちは止められないの」


「ルミエールは残酷すぎるよ」


ルミエールはわずかに目を伏せた。


「ソレイユ、ごめん。

私もあなたの恋を応援していたわ、あの時は。

でも状況が変わったの」


「こないだまではサークルみたいに、

笑って、失敗して、また笑える場所だった」


「でも――」


「今はもう違う」


「私たちは“プロ”の道に足を踏み入れた」


「だから、

甘えたことは言えないの」


ソレイユの目に涙が浮かぶ。

いつも太陽のように笑っていた少女が、

初めて怒りと悲しみで揺れていた。


「甘えたこと言えない? プロは恋しちゃいけないの?」


ソレイユの唇が、かすかに震えた。


ノアールは、この状況を止めたいと思った。

けれど、言葉が形にならない。


今ここで何かを言えば、

この均衡が完全に壊れてしまう気がして――


ただ、立ち尽くすことしかできなかった。


「……もう嫌」


ソレイユの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。


「ルミエール、大嫌い!」


迎えの車は、もうすぐそこに停まっていた。

けれど、ソレイユはそのドアへ向かおうとはしなかった。


「……私、ひとりで帰る!」


言い捨てると同時に、ソレイユは踵を返して走り出した。

迎えの車とは反対方向へ、夜の闇の中へ。


その瞬間だった。


ぽつり、と冷たいものが頬に触れた。


次の瞬間には、細い雨が街灯の光を白く煙らせ始める。


傘もささず、ソレイユは一人で走っていく。

濡れた髪、濡れた背中が、雨の中に溶けていく。


ルミエールは追わなかった。……追えなかった。

ただ、冷たい雨に打たれながら、拳を固く握りしめて立ち尽くしていた。


太陽は、雨の中へ消えていった。

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