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第51話 夕暮れの庭で

うまくいかなかったステージ。

悔しさと不安を抱えながらも、私たちは次の一歩を探し始めた。


新しい歌。新しいイラスト。新しい夢。


そして――

それぞれの心が、少しずつ動き出す。

ルミエールの家のリビングには、まだ熱の残った空気が漂っていた。

 新しく完成した楽曲のデモ音源。

 ノアールが描き上げた、丸みのある可愛らしいロボットのイラスト。

 そして、三人が試行錯誤して決めたサインの練習用紙。


「これ、子供たち絶対欲しがりますよ!」

 桐谷がノアールのイラストを手に取り、目を輝かせる。


「ステッカーにしたら、即売れっすね。俺でも欲しいくらいです」


「……ありがとう」

 ノアールは少しだけ頬を染め、小さく微笑んだ。


 机の反対側では、桐谷がルミエールの演奏用ロボットに張りついていた。


「この関節の動き、どうなってるんですか!?

 さっきのドラム連打、人間の指じゃ無理ですよね!?」


「独自制御のモーターよ。

 興味があるなら、あとで簡易設計を見せてあげるわ」


「マジっすか! 最高です!」


 ルミエールは穏やかに微笑みながらも、場の空気が少し熱を帯びすぎていることを感じ取っていた。


「……少し休憩にしましょうか。

 頭を冷やした方が、いいアイディアも出るものよ」


 その一言で、空気がふっと緩む。


「じゃあ俺、ルミエール先輩にもっとロボット教わります!」

 桐谷はそのまま席を動かない。


「……私は、ちょっとルナのところへ行ってくる」

 ノアールは静かに立ち上がり、イラストを胸に抱いたまま部屋を出ていった。


 そしてソレイユが伸びをしながら言う。


「私、ちょっとお庭の空気吸ってくるね」


 その視線が、自然に悠斗へ向く。


「……ゆうとも、来る?」


「あ、うん。行くよ」


 ルミエールは二人を見送りながら、何も言わず微笑んだ。

 まるで、すべて分かっているかのように。


 夕暮れの庭は、オレンジと紫が溶け合った光に包まれていた。

 少し冷たくなった風が、ソレイユの髪をふわりと揺らす。


「……ゆうと。

 最近、部活あまり行けてなくて、ごめんね」


 ソレイユの声は、いつもより少し小さかった。


「ううん。頑張ってるの、わかってるよ」


 悠斗は沈みかけた太陽を見つめたまま、言葉を探す。

 その横顔が、さっきまでの部室とは違って見えた。


「こないだのステージ、見て……嬉しかった。ほんとに」


 それから、ほんの一拍。


「でも、怖くもなった」


「……怖い?」


「ソレイユが、どんどん輝いて……

 そのぶん、どんどん遠くに行っちゃいそうで」


 悠斗の声が、少しだけ震える。


「応援したい。成功してほしい。

 ……それなのに、置いていかれるのが嫌だって思ってしまう自分がいてさ」


 ソレイユは足を止めた。

 こないだのステージで感じた悔しさが、まだ胸の奥で温度を持っていたから。


「……私もね。

 あのあと、ちょっとだけ自信なくしてた」


 ソレイユは笑おうとして、うまく笑えないまま続ける。


「でも、ゆうとが応援してくれて、嬉しかった」


 悠斗は、ソレイユの手を取った。

 指先が少し冷えているのが分かって、離したくなくなる。


「だから今だけ……」


 悠斗は一歩近づき、ソレイユの肩をそっと抱き寄せた。


「……離れたくない」


「ゆうと……」


 ソレイユが顔を上げる。

 悠斗は言葉を続ける代わりに、ソレイユの頬に手を添えた。


 そして――


 そのまま、唇が重なった。


 一瞬だった。

 でも、逃げるみたいに離れない。

 確かめるように、もう一度だけ、そっと触れる。


 ソレイユの胸の奥にあった不安が、言葉より先にほどけていく。


「……今は、ここにいるよ」


 ソレイユが小さく言うと、悠斗は苦しそうに笑った。


「……うん。今だけでいい。今だけは」


 夕闇が少し濃くなる。

 二人の影が、芝生の上で重なったまま、静かに揺れていた。

遠くへ行く未来は、きっと止められない。

それでも――今ここにある温もりだけは、離したくなかった。

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