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第49話 湯気の中のメロディ

失敗した。


そう口にするのは簡単だけれど、

本当に苦しいのは、

「頑張ったのに届かなかった」時だ。


それでも――

温かい湯気の中で、

私たちはもう一度、未来を見つめ直す。

ルミエールの家の広いジャグジーに、温かな湯気が立ち込めている。

いつもなら「すごい!」とはしゃぐはずのソレイユも、今はただ、ぼーっと天井を見上げていた。


 ブクブクと響く泡の音だけが、今の三人の沈黙を埋めてくれる。


「……あーっ、やっぱり悔しい!」


 ソレイユが突然、お湯をバシャリと叩いた。


「今日は頑張ったよ。あんなに人が集まったんだもん。  例え目当てがロボットだったとしても、あんなに大勢の前でやったこと、私たち凄くない?  ……ちょっと、前向きに考えようよ」


 その言葉に、隣にいたルミエールが優しく微笑んで頷く。


「そうね。まだ始まったばかり。改善の余地はたくさんあると思うわ」


「改善、か……」


「ええ。まず、私たちの持ち歌が一曲しかないこと。  それから、場所がショッピングセンターだったから、小さなお子さん連れが多かったわね。  ソレイユの書いてくれた『恋』の歌詞は素敵だけど、あの場所には少し合わなかったかもしれないわ」


 ルミエールは少し考えるように、湯気の向こうを見つめた。


「準備中に子供から『ロボットと遊べないの?』って聞かれたの。  この子は演奏用だからって断るのが、すごく心苦しくて……。  だから、うちの倉庫で眠っている子供たちが安全に遊べるロボットを持って行こうと思うんだけど、どうかしら?」


「それ、賛成!」


 ソレイユが身を乗り出す。ルミエールはそのまま、ふと思いついたように続けた。


「それから……家族連れが多いなら、子供たち自身が参加できる演出も必要ね。  例えば、子供向け番組の“歌のおねえさん”のように、一緒に歌って踊れる曲を用意するのはどうかしら?」


「……歌のおねえさん?」


 ソレイユは首をかしげ、次の瞬間、ぱっと表情を輝かせた。


「なにそれ、楽しそう! よくわからないけど、私やってみたい!」


 二人の会話を静かに聞いていたノアールが、お湯に顔を半分沈めたまま、ポツリと口を開いた。


「……ロボット、持って行こう。  あとね……歌うの、私だけじゃなくて、二人も歌ったらどうかな?」


「えっ?」


 二人の声が重なった。


「その間、私が楽器に挑戦したり、ダンスをしたり……。  ギターは弾けないけど、キーボードなら……小さい頃、ブランシュやママに教えてもらったから、少しは弾けるかも」


 ノアールは少し顔を赤くして、でも真っ直ぐな目で二人を見た。


「歌詞も、今なら作れる気がする。  子供の頃の、楽しい思い出を形にしてみたいの」


 ソレイユとルミエールは顔を見合わせ、同時にノアールに抱きついた。


「ノアール、最高だよ!」


「素敵だわ、ノアール。じゃあ、決まりね」


 お風呂から上がると、体だけでなく心までポカポカと温まっていた。  リビングで髪を乾かしていると、ソレイユのスマホが「ピコン」と音を立てる。


「あ、ゆうとからだ」


 メッセージを読んだソレイユの頬が、お風呂上がりとは別の熱で赤く染まる。


『お疲れ様。今日のライブ、良かったよ。  遠くに行っちゃったみたいで少し寂しいけど、ソレイユの笑顔が見れるのが一番嬉しいから。  手伝うことがあったら何でも言って。チラシ配りでも何でもやるよ』


「……ゆうと、寂しかったんだって。でも応援してくれてる」


 ソレイユが嬉しそうに、でも少し申し訳なさそうにスマホを見せる。


「最近、部活に全然行けてなかったもんね。……会いに行きたいな」


 ルミエールがハーブティーをカップに注ぎながら提案した。


「じゃあ、週に一度は部活に顔を出しましょうか。  そこでライブのデザインやチラシを相談してみるのもいいかもしれないわ。  私たちの考えだけじゃ、どうしても偏ってしまうもの」


「あ、それならサイン会とかどう?」


 ノアールが、珍しく自分から身を乗り出した。


「お姉ちゃんがデビュー前、ファンと握手してサインを書いてたの。  アニメ同好会で、ロボットのイラストを入れたサイン紙のデザインを考えて……そこに、私たちがサインするの」


「すごいじゃん、ノアール! それ採用!」


 ソレイユが弾けるような笑顔を見せ、ノアールは照れながらも、自分のアイディアが受け入れられた喜びを噛み締めていた。


 失敗はした。  でも、次はもっと高く跳べる。


 夜景の向こう側で応援してくれる人の存在を感じながら、  三人の夜は静かに、そして希望に満ちて更けていった。

読んでいただき、ありがとうございます。


初ステージは、

“自分たちが主役ではない” という現実を突きつけました。


けれど、

仲間の温もり、

応援してくれる誰かの言葉、

そして自分の中に眠っていた小さな才能。


それらが、再び歩き出す力になります。


次回、

新しい歌が生まれ、

新しい挑戦が始まります。


湯気の向こうで見えた未来へ――

LUMISORA☽、再スタートです 。

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