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第48話 主役のいないステージ

小さなステージ。

小さな一歩。


それでも――

それは確かに「始まり」でした。

「……ふあ。さすがに、ちょっと眠いわね」


ルミエールが小さく欠伸を噛み殺した。

昨夜は三人とも、ドキドキしてほとんど眠れなかった。


寝不足の目をこすりながら、

ルミエールの家の大きなワンボックスカーから、

三台のロボットを慎重に運び出す。


準備をしていると、

すぐに小さな子供たちがトコトコと寄ってきた。


「あ、ネコのロボットだ!

これで遊べるの?」


目を輝かせる子供に、

ルミエールが優しく微笑んで屈み込む。


「ごめんね。

この子たちは遊ぶためのロボットじゃなくて、

楽器を演奏するロボットなの。


……今度は、一緒に遊べるロボットも連れてくるわね」


やがて店内にアナウンスが流れる。


『一階イベント広場にて、

ロボットと共演するユニット

「LUMISORA☽」のライブが始まります――』


準備を進める私たちの周りに、少しずつ人が集まってくる。

けれど、その視線の百パーセントはロボットに向けられていた。


「すごい、本物のロボットだ」

「未来の技術って感じだね」

「ねえ、あの人たちはロボットのスタッフかな?」

「たぶん、メンテナンスの人じゃない?」


ノアールの耳に、そんな囁きが届く。


(……私たちは、脇役なんだ)


胸の奥に、チクリとした痛みが走った。


「――LUMISORA☽、始めます!」


ソレイユの合図で、ライブがスタートした。


音楽が鳴り出した瞬間、

猫型ロボットたちが滑らかに動き出す。


黒猫のドラムが力強いビートを刻み、

白猫のDJがスクラッチを加え、

ピンク猫のベースが地響きのようなリズムを刻む。


ソレイユがステージを駆け回り、得意のステップで観客を煽る。


「みんな、楽しんでいってね!」


ノアールも、練習を重ねた透明な声を、

吹き抜けの天井へと響かせた。


けれど。

観客は皆、スマホをロボットに向けていた。


「見て、あのドラムさばき!」

「耳が動いてるよ、可愛い!」


会話の主役は、すべてロボット。


ノアールがどれほど魂を込めて歌っても、

それは

精巧なロボットたちの動きを引き立てるBGM

でしかなかった。


「……すごかったですよ、ライブ」


終了後、イベント責任者がホクホク顔でやってきた。


「みんなロボットに釘付けでした。

うちの全国の店舗でも、ぜひやってほしい。

親子連れの客寄せには最高だ!」


(客寄せ……)


ノアールは、

マイクを握りしめていた手が震えるのを感じた。


広場の遠く、柱の影では、

変装したショコラとブランシュが

心配そうに身を寄せ合っていた。


「……完全にロボットに主役を奪われているわね。

ノアール、大丈夫かしら」


「あの子のことよ。きっと大丈夫。

……でも、少しだけ、見ていて辛いわ」


一方、観客の端には悠斗と桐谷の姿もあった。


「すげぇな……

本当に、遠くへ行ってしまった感じだ」


桐谷が小声で言うと、

隣の悠斗はステージを見つめたまま呟いた。


「……大丈夫かな、ソレイユ」


「先輩、ほんと優しいっすね」


「……ただの心配性だよ」


悠斗はステージの熱気に馴染めない自分を自覚していた。

歌よりロボットを見ている人々。

その違和感に、胸がざわついた。


片付けを始めるステージ。

ロボットに群がる子供たちの喧騒の中で、


ノアールは

自分の足元だけが、

ひどく静かだと感じていた。

読んでいただき、ありがとうございます。


客寄せのパンダとしての、初ライブ。

認められたのは技術であって、

自分たちの歌ではありませんでした。


けれど、この「透明な存在感」こそが、

彼女たちを次なるステージへと突き動かします。

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