第45話 静寂のレコーディング
スタジオの重い扉を閉めれば、そこは完全な別世界。
私たちの『LUMISORA☽』という名前が、はじめて音になります。
「……よし、準備は完璧。ノアール、マイクの前へ」
ルミエールの凛とした声が、ヘッドホン越しに響く。
ノアールはマイクの前に立ち、大きく深呼吸をした。
ブースのガラス越しには、ミキサーを操作するルミエールと、
愛用のエレキギターを抱えたソレイユ。
そして、昨日調整を終えた三台の猫型ロボットたちが、
それぞれの楽器を構えてスタンバイしている。
「スピーカーはオフ。
全員ライン録り(ダイレクト・レコーディング)で行くわ。
音はすべて、このヘッドホンの中だけで鳴る」
ルミエールが手際よくミキサーを調整すると、
スタジオ内は、耳が痛くなるほどの静寂に包まれた。
聞こえるのは、
ノアールのわずかな衣擦れの音と、
自分の心臓の鼓動だけ。
「いくよ、ノアール!
私たちの最初の音、世界に叩きつけてやろう!」
ソレイユがヘッドホン越しに元気よく叫ぶ。
ルミエールの指が、録音開始のスイッチを押した。
――カウントが始まる。
ヘッドホンの中に、
突如として銀河が広がるような、
爆発的なバンドサウンドが流れ込んできた。
黒猫のドラムが刻む正確なビート。
白猫のDJが鮮やかな色彩を加え、
ピンクリボンのベースが地響きのような重低音で支える。
そこへ、ソレイユのエレキギターが、
切り裂くような熱いメロディを走らせた。
(……すごい。
昨日よりも、もっと「LUMISORA☽」の音がしてる!)
ノアールは、歌詞カードを握りしめた。
ソレイユが勇気を出して書いた、秘めた恋の詩。
宇宙から来た自分を隠しながら、
それでも誰かを好きになった切実な想い。
「……歌わなきゃ。
私たちの、本当の声を」
ノアールが口を開いた瞬間、
空気の色が変わった。
かつて「Cat*Star☆」として歌わされていた、
人形のような完璧な歌声ではない。
仲間を信じ、
自分の居場所を見つけた少女の、
力強く、透明な歌声。
『私は旅人 それは秘密
本当の名前も 隠したまま』
静まり返った室内で、
ノアールの生声だけが響く。
けれど、彼女の耳の中では、
仲間たちの最高の演奏が、
どこまでも背中を押し上げていた。
――最後のフレーズが終わり、
余韻が静かに消える。
ルミエールが、録音停止のボタンを押した。
「……お疲れ様。
最高のテイクが撮れたわ」
「やったあ!
ノアール、今の歌、鳥肌立ったよ!」
ヘッドホンを外した瞬間、
ソレイユの歓声が飛び込んでくる。
ノアールは、
少しだけ上気した顔で微笑んだ。
(これが、私たちの音楽……)
音一つ外へ漏れない静寂の地下室で。
けれど、間違いなく世界を塗り替えるような熱い何かが、
今、形になった。
読んでいただき、ありがとうございます。
一歩も外へ出ないまま、
彼女たちは銀河を駆け抜けました。
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(MVのURL:https://www.youtube.com/watch?v=He3Y5ZHT5Ao)
この音源を携えて、
物語はいよいよ「披露」のステージへ。




