第44話 お屋敷探検と、鋼鉄の猫型バンド仲間
怖かったはずのロボット。
でも知ってしまえば、それは“頼もしい日常”だった。
「おはよー!」
ルンルンで現れたソレイユに対し、テーブルに突っ伏しているノアールは完全に寝不足の顔をしている。
「ノアール、眠そうね?」
「……昨日、トイレと間違えて従業員の部屋を開けちゃって……。立ったまま充電されてる人たちを見て……びっくりして……眠れなかったの……」
「あー、知らなかったのね」
ソレイユはまるで「冷蔵庫に牛乳が入ってなかったね」くらいのテンションで笑った。
「うちの星じゃ、家庭に人型ロボットは当たり前だよ。街のあちこちにもいるしね。人手不足だからロボットが大活躍なの。そのおかげで、みんな自分のやりたいことに時間を使えて、生き生き暮らしてるわ!」
ノアールはパンをくわえたまま、静かに考える。
(……私の星より、ずっと未来……)
そこへルミエールが紅茶を置きながら言った。
「ノアール。放課後、屋敷を案内してあげるわ。昨日のままだと、さすがにかわいそうだから」
「……よろしくお願いします」
――
放課後。
ルミエールに連れられ、ノアールは屋敷の探検に出発した。
「まずはキッチンから」
ノアールは少し緊張しながら、キッチンへ足を踏み入れる。
そこはレストランのような大所帯ではなく、静かで整然とした空間だった。
二人の人型ロボットが、忙しなく動き回っている。
一人は調理家電を巧みに操り、
もう一人は盛り付けや片付けを担当していた。
食事が終わると、人間と同じような滑らかな動きでゴミを分別し、
食器は食洗器へ、
食材は冷蔵庫へと収めていく。
「メインの調理は自動調理器が行うけれど、隠し味を入れたり、盛り付けを整えたり、食材の管理をするのが彼らの仕事よ。繊細な器や野菜の泥落としは、水に強い洗浄特化型が担当しているわ」
ミキサーが回り、野菜が刻まれ、
まるで魔法のように料理の準備が進んでいく。
ノアールはただただ口を開けて見守るしかなかった。
さらに廊下へ出ると、掃除ロボットたちが静かに働いていた。
フローリング専用の薄型ロボット。
壁をスルスルと移動する窓拭きロボット。
高い天井の埃を払うドローン型ロボット。
外の広い庭では、
剪定、雑草抜き、水やりまでこなすガーデニングロボットが健気に動いている。
「……すごい。みんな、働き者なんだね」
ノアールが感心していると、
昨夜見た執事が音もなく現れた。
「お嬢様、全エリアのメンテナンス、予定通り完了いたしました」
「ありがとう。
……ノアール、この執事がお屋敷中のロボットたちを統括しているのよ」
ノアールは、ルミエールの家が一つの“生きた都市”のように感じられた。
「私は小さい頃から、こういう子たちに囲まれて育ったのよ」
ルミエールは穏やかに微笑む。
ノアールは思う。
(だから、ルミエールは何でも一人でできるんだ……)
――
夜。
「ただいまー!」
ソレイユが元気よく帰宅する。
「遅いわよ。準備して待っていたんだから」
「へへ、ごめんごめん。それで、今日は何?」
ルミエールは地下スタジオの扉を開いた。
「……ジャーン」
そこに並んでいたのは、
三体の愛らしい猫型ロボットだった。
ドラムセットの後ろでスティックを構える、クールな黒猫。
DJテーブルの前で耳をピコピコ動かす、白猫。
そして大きなベースを抱え、頭にピンクのリボンをつけたピンク猫。
昼に見た家事ロボットとは、まったく別の“ステージ仕様”。
「私たちのユニット『LUMISORA☽』のサポートメンバーよ」
ノアールが目を丸くする。
「……バンドメンバー、増えてる……。しかも猫型……」
「三人だけだと、ちょっと寂しかったからね!
この子たちと一緒に演奏して歌うの。どう? 可愛いでしょ?」
ソレイユは大満足そうに頷いた。
「……うん。可愛い。
でもちょっと……頼もしすぎるかも」
ノアールがぽつりと呟く。
「さあ、今日から練習よ」
ルミエールが指を鳴らすと、
猫型ロボットたちは一斉に動き出した。
しかし――
黒猫のドラムは微妙に走り、
白猫のDJはやたら派手にスクラッチし、
ピンク猫のベースはなぜかファンクに走る。
「……私たち、どこを目指してるんだろう」
ノアールが小声で呟いた。
「大丈夫。今から私が、この子たちの“心”を調整するわ」
ルミエールは端末を開き、
魔法使いのような速さでコードを書き換えていく。
機械と人間。
宇宙と地球。
そして歌。
『LUMISORA☽』は、
賑やかな新しい仲間と共に、
完成へ向かって静かに動き始めた。
読んでいただき、ありがとうございます。
怖かったロボットは、
今や頼もしい日常。
そして三色の猫型バンドメンバーと共に、
彼女たちの歌が、少しずつ形になっていきます。




