第42話 はじめての「歌ってみた」
ソレイユが書いた言葉に、AIが命を吹き込んだ。
あとは、私たちがこの曲に「想い」を乗せるだけ。
「……よし、音源は完璧ね」
ルミエールがノートパソコンを操作し、
AIで生成したばかりのメロディをスピーカーから流す。
ノアールの手元には、
ソレイユが書き綴った歌詞。
『銀河の片隅で、秘密の恋を』
宇宙から来た旅人が、
地球で初めて恋を知る物語。
それはソレイユの真っ直ぐな想いそのものだった。
「さあ、ノアール。
まずはテストで一回、歌ってみて。
私たちが音を合わせるから」
ルミエールがキーボードの前に座り、
ソレイユはアンプに繋いだエレキギターを肩にかけた。
ノアールは緊張で少し指先が震えたが、
ヘッドホンを装着し、
マイクの前に立った。
イントロが流れる。
星が降るようなキラキラとした音に、
ルミエールの繊細なキーボードの旋律が重なり、
そこへソレイユのエレキギターが鋭く温かい歪みを加えて
リズムを刻む。
(……歌わなきゃ。
ソレイユちゃんのこの気持ちを)
ノアールは深く息を吸い込み、
歌い出した。
『遠い星で生まれた私は
決められた道しか知らなかった』
言葉を紡ぐごとに、
歌声が熱を帯びていく。
ソレイユが悠斗くんを振り向かせるために、
ネットで一生懸命「恋の攻略法」を調べたり、
不器用ながらも「地球人のふり」をしてきた健気さ。
その想いの強さが、
ギターの音色と共にノアールの心に流れ込んでくる。
『私は旅人 それは秘密
本当の名前も 隠したまま』
サビに入ると、
ノアールの歌声が部屋の中に響き渡った。
それは、かつて「Cat*Star☆」として歌っていた時の、
誰かに押し付けられた完璧な歌声ではない。
今、目の前にいる大切な仲間のために、
自分の心で歌う本物の声だった。
「……最高だよ、ノアール!」
間奏でソレイユが満面の笑みで叫ぶ。
ルミエールも真剣な表情で力強くキーボードを叩き、
二人でノアールの歌を支えていく。
『宇宙に帰る日が もし来ても
あなたに出会えた この星を愛してる』
最後のフレーズを歌い終え、
余韻が静かに消えていく。
ノアールはしばらくの間、
マイクを握ったまま動けなかった。
「完璧よ、ノアール」
ルミエールが静かに拍手をする。
「これを『歌ってみた』としてレコーディングしましょう。
今のあなたの声には、
私たちの進むべき光が宿っているわ」
「うん!
私たちのデビュー曲、これで行こう!」
ソレイユがギターを抱えたまま飛びついてきて、
ノアールの肩を抱いた。
ノアールが少し照れくさそうに微笑んだとき、
ルミエールが二人を見つめて、
凛とした声で言った。
「決めたわ。
私たちのグループ名は、
LUMISORA☽にするわ。
後ろに三日月マークを入れるの」
「LUMISORA……」
ノアールがその名前を繰り返す。
光を意味するルミエール、
太陽と空を象徴するソレイユ、
そしてこの暗い夜を照らす歌声を持つノアール。
「ルミエールの光、ソレイユの空……
そして、それらを包み込むノアールの美しい夜。
三人が揃って、
初めて完成する空の名前よ」
ルミエールの言葉に、
ノアールの胸が熱くなった。
「ルミソラ!
うん、いい名前!
私たちにぴったりだね!」
ソレイユがはしゃいで跳ね回る。
ふと足元を見ると、
プレイルームで寝ていたはずのルナが、
いつの間にかドアの隙間からこちらを覗いていた。
冷たい態度は相変わらずだったけれど、
ノアールには、
ルナが自分たちの新しい門出を
静かに見守っているように見えた。
(……LUMISORA☽。
みんなと、この名前で、上を目指したい)
ノアールの心に、
かつてないほど強い光が灯った。
読んでいただき、ありがとうございます。
三人の想いが重なった、
はじめてのセッション。
そして誕生した『LUMISORA☽』。
彼女たちの快進撃が、
ここから始まります。




