第41話 届かないしっぽ、はじまりのメロディ
描くこと、作ること、笑うこと。
夜の屋敷で、小さな未来が動きはじめる。
部活の帰り道。
寄り道をしていたら、すっかり帰りが遅くなっていた。
ノアールは家に着くと、真っ先に猫のプレイルームへ向かう。
「ルナ……ただいま」
ドアを開けた瞬間、
クッションの上で丸くなっていたルナがちらりとこちらを見る。
しかし次の瞬間。
ぷい。
視線をそらし、そのまま寝返りを打った。
お腹いっぱい。
遊ぶ気もない。
甘える気もない。
「……そっか」
ノアールの胸が、少し沈む。
そこへルミエールが静かに隣に立った。
「こういう日もあるわ。
ルナと出会って、まだ数日。
ペットはどうしても“餌をくれる人”に懐きやすいものよ」
ノアールは小さく頷く。
「これから部活もアイドルも、もっと忙しくなるわ。
ずっとルナのそばにいることはできない。」
「一緒にいられる時間に、根気よくお世話を続けていれば、きっと気持ちは伝わるわ」
ルナは相変わらず、気持ちよさそうに眠っている。
「今は、ゆっくり休ませてあげましょう。
私たちは宿題と、歌とダンスの練習をする時間ね」
「……うん」
ノアールは、少しだけ前を向いた。
宿題を終えたあと。
ソレイユが弾んだ声を上げた。
「ねえ、みんな。
昨日書いた恋の詩、曲をつけてみない?」
ノアールは戸惑う。
「私、歌ったことはあるけど……
曲を作ったことはないよ……」
ルミエールが穏やかに微笑む。
「大丈夫。私、ピアノやキーボードが弾けるわ」
「私もギターできるよ!」
ソレイユが元気よく続ける。
さらにルミエールはノートパソコンを開いた。
「それに今は、AIでも簡単に曲の土台を作れるの。
ノアール、ソレイユの詩をここに入力してみて」
ノアールが恐る恐るノートパソコンに詩を入力する。
数秒後――
ノートパソコンから、完成されたメロディが流れ出す。
「……わ、できた」
ノアールの目が丸くなる。
「すごい……こんなことまでできるんだ。
これなら……私にもできるかも」
ソレイユは楽しそうに手を叩いた。
「じゃあこの曲、私たちでアレンジしようよ。
キーボードとギターを入れて、もっと素敵にして――」
ルミエールも頷く。
「完成したら、レコーディングして事務所に持っていきましょう。
OKが出れば、配信やライブに繋がるわ」
「わあ……本格的にデビューだね!」
ソレイユは目を輝かせる。
(デビュー……)
その言葉を聞いた瞬間、
ノアールの頭に、あの頃の映像がふっと浮かぶ。
ノアールの胸が、きゅっと痛んだ。
ルナを拾った日を思い出す。
(ルナと暮らしたい。
借金も返さなきゃ。
――やるしかない)
「……私、頑張る」
その言葉に、ルミエールが優しく笑った。
「じゃあ決まりね。
ノアールはメインボーカル」
「え……私がセンター?」
「経験者でしょう?」
ソレイユが笑う。
「私たちは楽器とダンスで支える。
ノアールは、まず“歌”に集中して」
ノアールは少し息を飲み――
ゆっくり頷いた。
「……うん」
こうして。
三人の最初のオリジナル曲が、
静かな夜の屋敷に生まれはじめた。
ルナにはまだ振り向いてもらえない。
けれど、みんなで作った新しい「歌」が生まれました。




