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第38話 歌声の魔法と、一歩前進

かつては義務だった歌声が、今は自分を救う光になる。 少しずつ、失っていた「自信」のカケラを拾い集める夜。

食事が終わったあと。

三人はリビングのテーブルを囲んで勉強を始めた。


ソレイユは驚くほどの速さで宿題を終えると、

そのままノートを開き、今のあふれる想いを言葉にして書き留め始める。


ペン先がさらさらと滑り、止まらない。


「ふふ、いい詩ができそうね」


ルミエールが微笑みながら言った。


「ノアールも、お姉さんたちやルナへの気持ちを何か書いてみない?」


「……うーん、難しい」


ノアールはペンを握ったまま、少し顔を伏せた。


「いろいろ考えると、悪いことばかり浮かんできちゃって……

心が苦しくなるの」


「そっか……」


ルミエールはそっとノアールの頭を撫でる。


「じゃあ、無理して書かなくていいわ。

今日は別のことをしましょう」


「別のこと?」


「うちにはね、カラオケができるお部屋があるの。

歌って、少し体も動かしたら、心がすっきりするわよ」


「……うん」


「じゃあ今日は、明るい曲を歌って踊りましょう」


ノアールはカラオケルームの前で、少しだけ足を止めた。


「……何を歌えばいいかわからない」


「最初は一緒に歌いましょう」


ルミエールは優しく言う。


「慣れてきたら、好きな曲を選べばいいの。

間違えても大丈夫よ」


ソレイユはすでに端末を操作しながら、


「私は恋の歌ばっかり予約しちゃお〜♪」


と楽しそうに笑った。


最初に歌ったのはソレイユだった。


初めて聴く曲なのに、

その歌声は驚くほど伸びやかで、胸に響く。


ノアールは思わず息を呑む。


(すごい……)


しかし同時に、胸の奥が少しだけ痛む。


(私は……過去に歌手だったのに……

ちゃんと歌えるかな……)


そんな不安を見透かしたように、

ルミエールが微笑む。


「私が主に歌うから、

ノアールは“歌いたいな”って思うところだけ歌えばいいわ」


「……うん」


ルミエールが歌い始める。

その曲は、ノアールも知っていた。


(……歌えるかも)


久しぶりに握るマイクの重み。

懐かしい感覚。


ノアールは恐る恐る声を重ねた。


大勢の観客の前で間違えてはいけない。

お姉さんの足を引っ張ってはいけない。

みんなに嫌われているのではないか。


――そんな、かつての重圧はここにはない。


ただ、心を許せる仲間の隣で声を出す。

それは不思議なほど心地よく、

ノアールの心を安らげていった。


「私もノアールと歌いたい!」


ソレイユが割り込み、

ノリの良い明るい曲が始まる。


笑いながら声を合わせる。


そして最後は、三人で一曲。


「ねえ、私たち。

なんだか、すごくいい感じじゃない?」


ソレイユが満足げに言った。


「きっと、素敵なユニットになれるよ」


ノアールは、胸の奥が少しあたたかくなるのを感じた。


歌のあとは、ダンスの練習。


大きな鏡の前で、

ルミエールが見本を見せる。


三人で動きを合わせて踊る。


最初は緊張していたノアールも、

いつのまにか夢中になっていた。


何も考えない。

ただ、体を動かす。


楽しい。


「ノアール、さすがじゃん。

歌もうまいし、ダンスも上手い!」


ソレイユが笑う。


ノアールは、少しだけ胸を張った。


(……私、ちゃんとできてる)


小さな自信が芽生えていた。


夜。


「今日もシャワールームで大丈夫よ。

無理しなくていいからね」


ルミエールが優しく言う。


するとノアールは、少し考えてから言った。


「……今日は、三人で入ってみようかな」


「うんうん、入ろう!」


ソレイユが弾んだ声を出す。


――一歩前進。


湯船に浸かりながら、

ソレイユののろけ話をたくさん聞いた。


恋をするっていいな、と

遠い憧れのように感じながら。


湯上がり。


「今日はルナと寝る?

それとも、三人で寝る?」


ルミエールが尋ねる。


「……今日は、ルナと寝たい」


「ふふ、じゃあノアールの部屋に“魔法”をかけに行きましょう」


ルミエールは手を振りかざし、

キラキラと光を放った。


「扉を開けてごらんなさい」


ノアールが扉を開く。


――そこには。


元のマンションの部屋をベースにしながらも、

シンプルで可愛らしい、

猫と過ごしやすい新しい部屋が広がっていた。


「……すご……。

こんな魔法があるんだ……」


「ノアールも魔力が強いもの。

訓練すれば、きっと使えるようになるわ。

今度、一緒に練習しましょう」


ノアールは小さくうなずいた。


ルナを抱っこして新しい部屋へ向かう。


しかし――


床に降ろした瞬間、

ルナは「プイ」と顔をそらし、

猫のプレイルームへと逃げてしまった。


「……あ」


胸がきゅっと痛む。


「……嫌われてるのかな……」


「猫は気まぐれよ」


ルミエールが穏やかに笑う。


「まだこの部屋に慣れてないだけ。

明日はここで一緒に遊びましょう」


ノアールは少し安心した。


「今日は、この部屋で寝る?

それとも、また三人で寝る?」


「……ここで寝る」


新しいベッドに腰を下ろす。


今日一日。

歌って、踊って、笑って。


今日もまた――「楽しい」と思える夜だった。

読んでいただき、ありがとうございます。 かつてのプレッシャーを脱ぎ捨て、歌う喜びを知ったノアール。 少しずつ、でも確実に、彼女の時間は動き出しています。

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