第35話 新しい家からの登校と、小さな恋の予感
新しい家、新しい朝。
まだ慣れないけれど、少しだけ前を向けそうな気がした。
雲一つない晴天。
今日は、ルミエールの家から登校する初めての朝だ。
お姉ちゃんの顔が見られなかったり、声が聞こえなかったりするのは、やっぱり少しだけさみしい。
けれど、三人で肩を並べて準備をする時間は、それを埋めるほどに賑やかで楽しかった。
「今日、放課後は動物病院に行くから、ルナとブランをそれぞれキャリーケースに入れて用意しておいて」
玄関で、ルミエールが執事にテキパキと予定を伝える。
「ソレイユは別行動で、お友達との約束があるそうです。
病院が終わって、ソレイユが帰ってきたら夕食にしましょう」
「お嬢様、いってらっしゃいませ」
執事とメイドさんがずらりと並んで頭を下げる。
「じゃあ、行きましょうか」
いつものように、運転手が待つ車に乗り込む。
窓の外を流れる見慣れない景色を見ていると、ふと胸の奥がちくりとした。
学校へ向かう途中、かつての自宅マンションの前を通る。
まだ一日も経っていないのに、ずいぶん昔のことのように懐かしく感じてしまう。
(お姉ちゃんたち、どうしてるかな……)
学校の校門に着くと、いつも通り「おはよう」の声が飛んでくる。
みんな、ルミエールやソレイユに声をかけ、その隣にいるノアールにも、おまけのように挨拶をしてくれる。
おまけみたいだけど、無視されていた頃に比べれば、ずっとずっといい。
三人で廊下を歩いていると、知らない子が駆け寄ってきた。
「あ、あの!
アニメ研究会に入りたいんですけど、昨日部室に行ったら鍵がかかっていて……」
「ごめんなさい。昨日は用事があってお休みしていたの」
ルミエールが申し訳なさそうに微笑む。
「今日も動物病院の予約があって部活はお休みなんだけど、
明日はやる予定だから、ぜひ来てね」
「希望者がいるなら、ちゃんとルールを決めなきゃね」
歩き出しながらルミエールが呟く。
ソレイユとノアールも、それに深く頷いた。
「ソレイユ!」
ふいに、聞き慣れない男子の声が響いた。
振り返ると、そこには爽やかなイケメンが立っていた。
「一緒に行こうぜ」
誘われたソレイユは、いつもと違う雰囲気で、ぽっと頬を赤くした。
「じゃあ……またあとでね!」
ソレイユは小さく手を振って、そのイケメンと一緒に一年生の教室の方へ行ってしまった。
「……ソレイユ、きっとあの子に恋をしているんだわ。
ノアールもそう思わない?」
「うーん……私、恋とか疎いから、よくわからなくて」
「あのお友達と遊ぶっていうのも、もしかしてデートだったりして」
ルミエールは楽しそうに、けれど少しだけ心配そうに笑った。
「後をつけてみたいけれど、今日は動物病院があるものね。
もし私たちが先に帰ったら、ルナとセレナで待っていましょう」
教室に着いてからも、驚くほど自然に受け入れられた。
「ねえ、今日学校終わったらカラオケ行かない?
ルミエールとノアールもどう?」
陽キャグループの女子に誘われ、ノアールは少し戸惑った。
けれど、ルミエールが鮮やかに答えてくれる。
「お誘いありがとう。すごく嬉しいけれど、今日は猫を病院に連れて行く予約があるの。
また今度、ぜひ誘ってね」
「そっか、残念!じゃあまたね」
うまく返事ができないノアールを、ルミエールが自然にフォローしてくれる。
輪の中に居られることが、何よりも嬉しかった。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴り、先生がやってくる。
いつもなら不安に支配される授業の時間。
けれど、昨日二人に教えてもらったおかげで、教科書の内容が少しずつ理解できるようになっていた。
窓から差し込む朝の光を浴びながら、
ノアールは少しだけ、前向きな気持ちでノートを開いた。
読んでいただき、ありがとうございます。
「おまけ」の挨拶でも、それは確かなつながり。
少しずつ、ノアールの世界が広がっていきます。




