第33話 見送ったあとの静寂
残された部屋は、驚くほど静かでした。
それは、今までどれほど必死に命と向き合ってきたかの証でもありました。
ノアールを乗せた車が、ゆっくりと角を曲がって見えなくなった。
マンションの入り口で、ショコラとブランシュは、いつまでもその先を見つめていた。
「……あーあ。行っちゃったね」
ショコラが、ぽつりと寂しそうな声を漏らす。
「外、少し冷えてきたわ。中に入りましょう」
ブランシュがそっと肩を寄せ、二人は静まり返った自宅へと戻った。
部屋に入ると、ブランシュはすぐにキッチンへ立ち、二つのカップに温かいココアを注いだ。
「ショコラ、これ飲んで。元気出して」
「……うん。ありがとう」
湯気をぼんやりと見つめながら、ショコラが溜息をつく。
「でも……やっぱり、ノアールが心配だよ。
本当は、あの猫も飼わせてあげたかった。
お姉ちゃんなのに、自分の力不足を感じちゃうな……」
ショコラの弱気な言葉に、ブランシュは優しく首を振った。
「仕方ないよ。
私たちは、自分たちにできることを精一杯やってきた。
それは、ノアールもわかっているはずよ」
「ブランシュは、心配じゃないの?
あの宇宙人の子たち……本当に信じていいのかな。
ノアールが、そのまま宇宙へ連れていかれたりしない?」
突拍子もない不安に、ブランシュは少しだけ口角を上げた。
「でも、あの子たちには何度も助けられたでしょう?
あの事務所の時も、今回ノアールの闇が出た時も」
「もし、あの子たちが魔法を使ってくれなかったら、
きっとまた救急車を呼ぶことになっていたわ」
ブランシュはココアを一口飲み、視線を遠くへ向けた。
「ねえ……あの子たちのこと、信じてみない?
入院していたノアールを助けてくれたのも、
きっと、あの子たちよ」
「そういえば……」
ショコラが、思い出したように顔を上げた。
「あの日、病院の屋上で祈っていた時に、
変な動きをする光を見たの」
「流れ星かと思ったけど、
近くに降りてきたみたいで……」
「もしかしたら、あれ、
二人が乗っていたUFOだったのかも」
「そんなことがあったの?」
「うん。
あの光を見たあと、
急にノアールの容態が良くなったんだよね……」
二人が記憶を辿っていると、スマホが短く鳴った。
ルミエールとソレイユからのメールだった。
そこには、ノアールが二人と並び、
照れくさそうに、でも心から楽しそうに笑っている写真が添付されていた。
『心配しないでください。
ノアールさんは元気です。
今度、お姉さんたちもぜひ遊びに来てくださいね』
その写真を見た瞬間、二人は言葉を失った。
こんなに屈託のない笑顔のノアールを見るのは、
一体、何年ぶりだろうか。
「……やっぱり、行かせて良かったのかもしれないね」
ブランシュの言葉に、ショコラもようやく深く頷いた。
「そうだね。
今度、二人で遊びに行ってみようか」
「ええ、そうしましょう」
重くのしかかっていた不安が、
温かなココアのように、少しずつ溶けていく。
二人は久しぶりに、
心の底から安心して、深い眠りにつくことができた。
読んでいただき、ありがとうございます。
姉たちの決断と、その裏にある愛情。
ノアールがいなくなった部屋は少し寂しいけれど、
そこには、確かな希望が灯っていました。




