第32話 はじめての夜
新しい家、新しい生活。 一人になる暇もないほどの光が、そこにはありました。
晩ご飯を食べ終えたあと、
ルミエールが声をかけた。
「ノアール。学校の宿題や勉強道具、持ってきて」
言われるまま、ノアールは鞄を抱え、
ルミエールとソレイユと一緒に家の中を歩く。
案内されたのは、広い図書室だった。
大きなテーブルと椅子。
壁一面に並ぶ、本、本、本。
「ここで学校の勉強をしましょう」
ノアールは宿題を広げ、ペンを走らせる。
けれど、少しすると手が止まった。
(……ここ、わからない……)
すると、すぐに気づいたように、
ルミエールとソレイユが覗き込む。
「ここはね――」
「その公式、こう考えると簡単だよ」
二人が交互に説明してくれる。
ソレイユはノアールより年下で、高校一年生。
けれど、飛び級できそうなほど頭が良い。
二人に教えてもらいながら進めると、
宿題はどんどん片付いていった。
(……こんなに早く終わるなんて……)
「よし、じゃあ次は――」
ルミエールが立ち上がる。
「軽く体、動かしてみましょうか」
エレベーターで地下へ降りると、
そこにはトレーニングルームやダンススタジオが並んでいた。
「今日は音楽かけるから、自由に動いてみて」
ルミエールが、明るいノリの音楽を流す。
「もう何でもいいから、体動かそ!」
ソレイユが笑う。
「で、でも……どう動いたらいいかわからない……」
ノアールが戸惑っていると、
ソレイユが言った。
「じゃあ、私の真似してみて」
次の瞬間、ソレイユはキレキレに踊り出した。
ノアールは少し遅れながら、見よう見まねで動く。
ぎこちないけれど、
気づくと、少し楽しくなっていた。
「ノアール、その調子!」
声をかけられ、
ノアールは次第に何も考えなくなっていく。
体が、勝手に動く。
(……こんなに夢中で踊ったの、久しぶり……)
しばらくして、三人とも汗だくになった。
「じゃあ、お風呂にしましょう」
案内された先には、大きなジャグジーバスがあった。
「み、みんなと入るのは……ちょっと……」
ノアールが小さく言うと、
ソレイユがあっさり言った。
「じゃあ、個室のシャワールーム使えばいいよ」
「気が向いたら、また一緒に入ろ」
その言葉に、ノアールはほっとする。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、
今度は大部屋に布団が三つ並べられていた。
「今日は修学旅行みたいにしよう」
そう言って、
なぜか始まる枕投げ。
最初は見ているだけだったノアールも、
気づけば一緒に参加していた。
笑って、転んで、
息が切れるまで。
そのあと、布団に並んで寝転び、
自然と女子トークが始まる。
「ノアール、今まで好きな人いた?」
ルミエールが、悪気なく聞いた。
「……私は……」
少し考えてから、ノアールは答える。
「自分が生きるので精いっぱいで……
好きって、よくわからない……」
「ノアール、これからよ」
ルミエールは、やさしく笑った。
「私はね、パパみたいな人が理想なの」
「パパは真面目で誠実で、ママをとても大事にしてる」
「ママ、すごく幸せそうなの」
「あんな夫婦になりたいなって思う」
「ソレイユは?」
話を振られたソレイユは、少し照れた。
「私? 私ね、地球に来る前、好きな人いたよ」
「好きになったら一直線。自分から告白しちゃう」
「さすがソレイユ」
笑いが起きる。
「じゃあ、今この学校に好きな人いるの?」
そう聞かれると、
ソレイユは顔を真っ赤にした。
「……うーん、ひみつ」
「いるんだ」
「いいなあ……」
「私はね、パパを超える人が、この学校にはまだいないかな」
そんな会話に、ノアールは胸がいっぱいになる。
(……私、今……)
はじめて、
この輪の中に、ちゃんと入れている気がした。
夜遅くまで、三人で話し続け、
気づいたときには――
三人とも、眠ってしまっていた。
読んでいただき、ありがとうございます。 孤独を忘れるほどの温かな夜。 ノアールの心に、小さな灯がともり始めました。




