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第30話 選んだ先にある場所

大きな決断は、

いつも静かなところから始まるものかもしれません。


守ることと、手放すこと。

その境目に立たされた夜のお話です。

ノアールは、ルミエールの突然の提案に、固まっていた。


想像もしなかった誘いだった。

自分が、このマンションを離れるなんて。

誰かの家で暮らすなんて。


頭が、うまく働かない。


けれど――

はっきりしていることも、あった。


このマンションでは、ルナを飼うことはできない。

捨てることも、手放すことも、考えられない。


ルナと一緒に生きるには。

選択肢は、もう一つしかなかった。


不安で、怖くて、胸がぎゅっと締めつけられる。


それでも。


(……ルナのために)


ノアールは、深く息を吸い込んだ。


「……うん。わかった……」


小さな声だったが、逃げなかった。


「ルミエールの家で……ルナと暮らす」


その言葉を聞いた瞬間、

ショコラとブランシュの表情が、同時に曇った。


二人とも、何も言わない。

自分たちの無力さを突きつけられたような、苦しそうな顔だった。


(……やっぱり)


ノアールは、その表情を見て、胸が痛くなる。


自分のせいで。

自分が弱いせいで。


胸の奥から、闇がじわりと滲み出しそうになる。


――けれど。


さっき、ルミエールとソレイユが放った光が、

まだ体の奥に残っていた。


闇は、出てきそうで、出てこない。


「大丈夫よ」


ルミエールが、穏やかに微笑んだ。


「一生のお別れじゃないわ」


「会いたくなったら、ショコラもブランシュも、うちに遊びに来ればいい」


「ノアールが帰りたくなったら、ルナはうちで預かるわ。里帰りしても大丈夫」


その言葉に、ショコラとブランシュの肩から、少しだけ力が抜けた。


続けて、ソレイユが明るく口を開く。


「私は遠い宇宙から来たから、最初はすごく不安だったんだよ」


「でもルミエールは優しくて、執事さんもメイドさんも、みんな親切でさ」


「お屋敷は快適だし、安心できる場所だよ」


ソレイユは、ノアールを見て、にこっと笑った。


「ノアールと一緒に暮らせたら、もっと楽しく過ごせるだろうなって思うの」


ショコラとブランシュは顔を見合わせ、

そして、申し訳なさそうに頭を下げた。


ブランシュが、静かに言う。


「……ルミエールさん、ソレイユさん。ノアールを、よろしくお願いします」


「何かあったら、いつでも連絡してください」


「仕事や大学で、すぐに出られないこともあると思いますが……必ず返事します」


ショコラも、ノアールの方を見て、優しく微笑んだ。


「帰りたくなったら、いつでも帰ってきていいからね」


「ここは……あなたのおうちなんだから」


ノアールの胸が、ぎゅっと締めつけられる。


「……今日から、ルミエールの家に行くから」


「とりあえず、今すぐ必要なものだけ持っていくね」


少し迷ってから、ノアールは続けた。


「……私、お姉ちゃんたちに迷惑ばかりかけてきた」


「でも、もっと自立する」


「もし……アイドルに戻れたら」


一瞬、視線を伏せてから。


「もう一度、お姉ちゃんたちと、同じ舞台に立ちたい」


「それまで、頑張るから……信じてほしい」


ルミエールは、静かに頷いた。


「ソレイユと私は、魔法が使えるの」


「それも、ノアールを回復させる魔法よ」


ショコラとブランシュが、息を呑む。


「先日、ノアールが入院して、命の危機が迫った時」


「私たちは、遠くから魔法をかけていたの」


「近くにいれば、もっと即効性があったけれど……」


ルミエールは、真っ直ぐにノアールを見る。


「だから、もしものことがあっても、すぐに対応できる」


「学校で何か起きても、時を止めて魔法をかけることもできるわ」


「……私たちに任せて」


「……そうだったのね……」


ノアールは、小さく呟いた。


「ありがとう……何から何まで……」


ショコラが、ゆっくりと口を開く。


「私とブランシュは、魔法使いと人間のハーフなの」


「どちらかというと、人間寄りで……魔法は弱い」


「でも、ノアールは違う」


少しだけ間を置いて、続ける。


「ノアールは、元々は普通の魔法使いだったの。

けれど……亡くなったお母さんが残した、闇の魔法の本を読んでしまって、

誤って闇の魔法を使ってしまった。

……そのせいで、闇に取り憑かれてしまったのよ」


しばらくの沈黙のあと、

ブランシュが、ルミエールとソレイユの方を見て、そっと問いかける。


「ノアールの闇は……治すことができるのかしら……?」


ソレイユは、少し真剣な表情で頷いた。


「今すぐ、完全に……とは言えないけど」


「私たちの魔法と技術を使えば、治る可能性はあるよ」


「だから、まずは生活を整えよう」


「ノアール、放っておくと菓子パンとかコンビニ弁当ばっかりになるでしょ?」


「栄養のバランスも悪いし」


ソレイユは、やわらかく笑った。


「まずは、ちゃんと食べて」


「人間としての体力を、取り戻そう」


「うちでね」


ノアールは、胸の奥が、少しだけ温かくなるのを感じていた。


不安は、消えない。


それでも――

選んだ先に、灯りがある気がした。

第30話は、

「正解を選ぶ話」ではなく、

「それでも選ばなければならない夜」を描きました。


別れでも、救済でもなく、

“居場所が少し移動しただけ”。


次回からは、新しい環境での違和感や、

ノアール自身の心の揺れが描かれていきます。


引き続き、

黒猫ノアールの物語を見守っていただけたら嬉しいです。

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