表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/66

第2話 ひび割れる心、揺れる夜

家に着くころ、外はすっかり夜だった。

雲の切れ間から、丸い月が静かに光を落としている。


その銀色の光は、

まるで闇に沈む誰かをそっと照らすみたいに

優しく揺れていた。


でもノアールは、

うつむいたまま気づかない。


(今日も……何もいいこと、なかった)


月の光は

ただ黙って、彼女を追いかけていた。


* * *


エレベーターが止まる音。

ノアールは重たい足を引きずりながら家へ戻った。


扉を開けると同時に、明るい声が飛ぶ。


「おかえり、ノアール!」


ショコラ。

キッチンに立ち、笑顔で振り返る。


その温かささえ、今のノアールには苦しかった。


「今日、学校どうだった?」


また。

また、その質問。


(どうして放っておいてくれないの)


「……いつもと同じ」


ノアールは靴を脱ぐ手を止めずにつぶやいた。


照明がチカッと瞬く。

だが、まだ誰も気づかない。


ショコラは少し身を寄せてくる。


「いつもと同じって……どんなふうに?」


ノアールはゆっくりと顔を上げた。

瞳の奥が揺れている。


「そんなの……

私が近づこうとしたら……

みんな、スッと逃げるんだよ?」


声が震える。

けれど、止まらない。


「話しかける前から……避けられてるの。

私なんて、最初からいないみたいに」


照明がもう一度明滅する。


ショコラは困ったように眉を寄せる。


「でも、それでも……少しずつ――」


「だからっ!」


ノアールの声に

ショコラの言葉が飲まれた。


「お姉ちゃんに、私の何がわかるの!?

お姉ちゃんはずっと人気者だったじゃない!」


(遠くで雷が、低く唸り始める)


「どうせ私は変なんでしょ!?

みんな私のこと気味悪がってるんだよ!」


ショコラは揺れる声で返す。


「変なんかじゃない。ノアールは――」


「ほっといてよ!!」


バチッ!!


照明が激しく明滅し、

窓の外が紫に光った。


ショコラが手を伸ばす。


「ノアール、待って――!」


「もう…やだ!放っといて!!」


ドンッ!!


扉が叩きつけられる音と同時に――

外で雷が落ちた。


建物が揺れ、

電気が一瞬で消える。

闇に包まれるマンション。


直後、屋外で

大粒の雹が激しい音を立てて落ち始めた。


ショコラは震える唇を押さえる。


「また……怒らせちゃった……」


その時、廊下から静かな足音。


白い部屋着のブランシュが姿を現す。

冷静な瞳がショコラを見る。


「ショコラ。

ノアールに刺激を与えないでって言ったはずよ」


ショコラは拳を握りしめる。


「でも……このままなんてできない!

私はノアールを助けたいの!」


「気持ちは同じよ。

ただ、今は近づくほど

ノアールの闇が強くなるだけ」


また雷鳴が轟く。

ノアールの部屋から、

抑えきれない嗚咽が漏れた。


月の光だけが

カーテンの隙間から差し込んで、


壊れてしまいそうな背中を

そっと照らしていた。


※次話へつづく

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

ノアールの物語を、これからもそばで見守っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ