第28話 覚悟の重さ
助けたい気持ちだけでは、命は守れない。
ノアールは初めて、「選ぶ責任」と向き合う。
ペットショップのレジで、ルミエールが淡々と会計を済ませた。
「とりあえず、これは立て替えておくわ。……ルナに会うまでに、どうするか考えておいて」
ノアールは、何も言えずに俯いた。
車が走り出す。
窓の外を流れる景色を見ながら、ノアールの頭の中はぐるぐると回り続けていた。
ルナを助けたい。
でも、そのためにお金を稼ぐ方法として「アイドル」に戻るのは、今の自分にはあまりにもハードルが高い。
(……お姉ちゃんたちは、なんて言うだろう)
体調を崩して活動を休んだあの日。
キャンセルが重なり、違約金が発生し、借金が残った。
そのせいで姉たちは、自分の勉強を後回しにして働いてくれている。
そんな状況で、「猫を飼いたい」なんて言ったら――。
(……また、迷惑をかけるだけかもしれない)
気づけば、車はルミエールの家に着いていた。
車を降りようとしたノアールを、ルミエールが呼び止める。
その表情は、いつもよりずっと真剣だった。
「ノアール。先に確認しておくわ」
ルミエールは静かな声で、はっきりと言った。
「猫を飼うのは、可愛いからじゃ続かない。
病気になったら病院。避妊手術も必要。
体調が悪くなれば、また病院。
動物病院のお金は、あなたが思っているより高いわ」
一つずつ、逃げ場を塞ぐように、ルミエールは言葉を重ねる。
「餌をあげていればいい、じゃない。
途中で投げ出すことは、許されない」
そしてルミエールは、まっすぐにノアールを見た。
「……覚悟、できてる?
できていないなら、今は会わない方がいいかもしれない」
胸が苦しくなる。
それでも――ノアールの答えは、もう決まっていた。
「……うん」
ノアールは小さく、でもはっきりと言う。
「覚悟、できてる。……会いたい」
「そう」
ルミエールは短く頷いた。
ルミエールが部屋のドアを開ける。
「ニャー」
甘えた声と同時に、黒い影が駆け寄ってきた。
ルナは迷いなくノアールの足元にすり寄り、顔を上げる。
その瞬間、ノアールの中で全部がはっきりした。
(……やっぱり。この子を助けたい。一緒に暮らしたい)
ノアールは顔を上げ、ルミエールをしっかり見据えた。
「ルミエール……私、アイドル、頑張ってみる。
ルナのために。やってみる」
さっきよりも、少しだけ大きな声だった。
「いいわ。いい返事ね」
ルミエールは静かに微笑んだ。
「じゃあ、その覚悟を、お姉さんたちに一緒に話しに行きましょう。
私も手伝うけれど、最後はあなたの言葉でね」
「……うん」
ノアールが頷くと、ソレイユも隣で優しく言った。
「大丈夫。私もそばにいるよ。
お姉さんたちなら、きっとわかってくれる」
再び車に乗り込み、自宅へと向かう。
家が近づくにつれて、ノアールの心臓の音は大きくなった。
――ピンポーン。
ノアールがチャイムを押すと、すぐに扉が開いた。
「こんばんは……えっ?」
出てきたショコラが、驚きに目を見開いた。
ノアールと、ルミエールとソレイユ。
そしてキャリーバッグの中の黒猫と、抱えきれないほどの荷物。
ショコラは一瞬、言葉を失った。
「ノアール、その猫……誰の?
それに、その荷物……どうしたの?」
ショコラの視線が、困惑と共にゆっくりとノアールへと戻ってくる。
読んでいただき、ありがとうございます。
守りたい気持ちだけでは足りない。
それでも、守ると決めた夜でした。




