第27話 選ぶ理由
守りたいものができると、
選ばなければならないことも増えていく。
やっと、放課後になった。
チャイムが鳴った瞬間、
ノアールは、いつもより早く立ち上がっていた。
「……急ごう」
自分からそんな言葉が出たことに、
ノアール自身が少し驚く。
ルミエールは一瞬だけ目を細めて、
やわらかく笑った。
「そうだね」
靴箱のあたりで、学年の違うソレイユと合流する。
いつものように、迷いのない足取りだった。
校門の近くには、
ルミエールの家の運転手が、すでに車を止めて待っていた。
「じゃあ、行きましょう。ペットショップ」
ノアールは、こくりと頷いた。
ペットショップに入るのは、初めてだった。
ガラスケースの中には、
手入れの行き届いた犬や猫たちが並んでいる。
毛並みはきれいで、
首元には小さなリボン。
値札を見て、
ノアールは思わず目を逸らした。
(……高い)
でも。
ノアールの頭に浮かんだのは、
昨日まで一人で夜を過ごしていた、あの黒猫だった。
段ボールもなく、
名前もなく、
それでも、胸にぴったりと収まった温もり。
(……ルナのほうが、ずっと可愛い)
どんなに高価でも、
この子たちより、ルナのほうが大事だった。
その間にも、ルミエールは迷いなく動いていた。
キャットフード。
トイレ用品。
おもちゃ。
キャリーケース。
次々と、かごに入れていく。
「……こんなに……?」
ノアールは、思わず声を出した。
「私、こんなにお金、持ってないよ……」
少し間を置いて、続ける。
「ずっと……アイドル、休んでたし……」
自分で言っていて、
胸の奥が、少しだけ重くなった。
ルミエールは手を止め、
ノアールのほうを見た。
「ねえ」
そして、とても自然な声で言う。
「また、一緒にアイドルしない?」
ノアールは、息を詰めた。
「私たちとやれば、きっと楽しくなるよ」
「お金は私が立て替えておくわ。出世払い、ってことで」
出世払い。
軽い言葉なのに、
意味は、重かった。
「今なら」
ルミエールは、静かに続ける。
「ルナのために、頑張れるんじゃない?」
ノアールは、黙り込んだ。
また、アイドル。
お姉さんとユニットを組んでいた頃。
期待されて、比べられて、
うまく笑えなくなっていった日々。
(……また、あんなふうになるのは……)
でも。
何もしなければ、
ルナを飼うことはできない。
守りたいのに、
何も差し出さないままでは、守れない。
葛藤で、頭の中がいっぱいになる。
その様子を見て、ルミエールは言った。
「もしかして……失敗が怖い?」
ノアールは、答えられなかった。
「大丈夫よ」
「私たちと一緒なら」
ルミエールは、少しだけ自信ありげに微笑む。
「私たち、とても運がいいの」
「だから、きっと成功する」
ソレイユも、横で頷いた。
「失敗は、成功のもと、って言うでしょ?」
ルミエールは、はっきりと言った。
「失敗を恐れて、何もしなかったら」
「何も進まないわ」
「それじゃ、ルナも助けられない」
その言葉が、
ノアールの胸に、まっすぐ刺さった。
守りたい。
その気持ちは、
もう嘘じゃなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
守るためには、
選ばなければならないこともある。
ノアールが初めて「条件」と向き合う回でした。




