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第26話 心配するということ

守ると決めた途端、

世界は少しだけ、落ち着かなくなる。

ルナは、ルミエールの家の運転手に預けた。


それで安心できるはずなのに、

学校に来ても、ノアールの心はずっと落ち着かなかった。


授業中、黒板の文字を追っていても、

気づくと、頭の中に浮かぶのはルナのことばかりだ。


(ちゃんと、ごはん食べてるかな……)

(知らない場所で、怖がってないかな……)


シャープペンを持つ手が止まる。


そのとき、ふと、思った。


――もしかしたら。


私が今、ルナを心配しているみたいに。

お姉ちゃんたちも、ずっと、私のことを心配していたのかもしれない。


理由も言わず、学校にも行けず、

部屋に閉じこもっていた私を。


胸の奥が、きゅっと縮んだ。


「ノアール」


隣から、静かな声がした。

ルミエールだった。


休み時間、ルミエールは迷いなく言った。


「ルナは大丈夫よ」


「うちには運転手のほかに、執事とメイドもいるわ。

みんな猫が大好きだし、猫専用の部屋もあるの」


ノアールは、思わず目を瞬いた。


「ベッドも、トイレも、おもちゃも。

フードとお水は自動。倉庫に予備もあるから、ルナの分も問題ないわ」


……完璧すぎる。


「それに、部屋にはカメラもついているの。

スマホで様子が見られるわ。観てみる?」


差し出された画面を覗くと、

そこには、黒猫のルナが映っていた。


ルミエールの家の猫と並んで、

小さな体を寄せ合うようにして、仲良く昼寝をしている。


「……寝てる……」


「ええ。さっき執事からも連絡があったわ。

ちゃんと食事もして、元気だって」


ノアールは、胸の奥に溜まっていた息を、

ゆっくり吐き出した。


「だから、今日は授業に集中しましょう」


ルミエールは、いつも通り落ち着いた声で言う。


「部活はお休みにして、放課後すぐにペットショップへ行くわ。

それから、うちに寄ってルナを迎えて、ノアールの家に一緒に行きましょう」


……そこまで、もう決まっている。


「お姉さんたちは、今日は何時ごろ帰るの?」


聞かれて、ノアールは言葉に詰まった。


考えたことが、なかった。


いつも、姉たちが何時に帰るのかなんて、

気にしたこともなかったし、

自分から連絡したことも、ほとんどない。


「……わからない」


そう答えると、横からソレイユが明るく言った。


「大丈夫! こないだ事務所でお姉さんの連絡先、聞いたから!」


「え……」


「今、送るね」


早い。

本当に、早い。


スマホを操作するソレイユの指は、もう止まらない。


「“大事なお話があるので、放課後にお家へ伺います”って送っといたよ」


「……はや……」


ノアールは、小さく呟いた。


私は、友達にすら、

自分からメールを送ることがほとんどない。


ましてや、家族に。

お姉さんに。


怖いのだ。

何かを伝えることが。


「……すごいね」


思わずそう言うと、ソレイユは笑った。


「でしょ? 行動は早い方がいいんだよ」


その隣で、ルミエールは何も言わず、

ただ静かに頷いていた。


ホントに、この二人は速い。


私は、遅い。


でも――


何もできない私には、

今は、この二人を頼るしかなかった。

読んでいただき、ありがとうございます。


ルナを心配することで、

ノアールは初めて「心配される側だった自分」に気づきます。


速く動く人たちの隣で、

それでも前に進もうとする、その一歩の回でした。

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