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第25話 はじまりの朝

秘密は、

朝の光にさらされるのを待ってくれない。


ノアールは、小さな命を抱えたまま、

今日という一日を迎えようとしていた。

朝。


カーテン越しの光が、まだ薄いころ。

ノアールは布団の中で目を覚ました。


胸のあたりが、あたたかい。


そっと目を開けると、

黒い毛並みが視界に入った。


「……ルナ」


声に出したつもりはなかったのに、

小さく、そう呼んでいた。


昨日出会ったばかりなのに、

ずっと前からそう呼んでいた気がする。


そのとき――


「ニャー」


思ったよりはっきりした声が、

静かな部屋に響いた。


ノアールの心臓が跳ねる。


(……まずい)


廊下の方から、足音。


「……今、猫の声しなかった?」


ブランシュの声だった。


「え?

 気のせいじゃない? うち、猫なんて飼ってないでしょ」


少し遅れて、ショコラの声。


ドアの前で、二人の気配が止まる。


ノアールは、布団をかぶり、

ルナを抱きしめて息を止めた。


数秒の沈黙。


「……まあ、朝だしね」

「夢でも見たんじゃない?」


そう言って、足音は離れていった。


(……言おうと思ったのに)


喉まで出かかった言葉を、

ノアールはまた、飲み込んだ。


ほどなくして、玄関の方から声がする。


「ノアール、私たち今日、朝早いから先に出るね」


「ノアールは、ルミエールたちと行くんでしょ?」


「……うん」


小さく返事をすると、

ドアの閉まる音がした。


家の中が、また静かになる。


ノアールは、腕の中のぬくもりを見下ろした。


「……どうしようか」


ルナは答えない。

ただ、ノアールの服の端を、小さな爪で引っかけていた。


そのとき、インターホンが鳴った。


玄関を開けると、

そこにはルミエールとソレイユが並んで立っていた。


「おはよう」


ルミエールは、いつも通り静かに微笑む。


その横で、ソレイユが一歩前に出て、

ノアールの腕の中を見て、目を丸くした。


「……あ。猫?」


一瞬のあと、にっと笑う。


「なにそれ。めっちゃ可愛いじゃん」


ノアールは、震える声で話した。


昨夜のこと。

コンビニの帰り道。

一人だったこと。

ほおっておけなかったこと。


「……お姉ちゃんたちには、まだ言えてなくて」


「そっか」


ソレイユは、責めるでも驚くでもなく、

軽く頷いた。


ルミエールが、静かに言う。


「じゃあ、今日はうちで預かるわ」


「え……?」


「猫はいるし、餌もトイレもある。

 慣れている運転手に任せれば安心よ」


ソレイユが肩をすくめる。


「放課後、ペットショップ行こ。

 必要なもの、全部揃えればいいし」


「……お姉さんたちには?」


「私が話すわ」


ルミエールの声は、迷いがなかった。


「家まで一緒に行って、説明する」


ノアールは、腕の中のルナを見た。


胸の奥で、固く結んでいたものが、

少しだけほどけていく。


「……いいの?」


「いいに決まってるでしょ」


ソレイユが、軽く笑う。


「行こ。

 ほら、ルナも一緒に登校だよ」


ルミエールが差し出した手。


ノアールは、その手を取った。


不安はまだ消えていない。

けれど、ひとりではなかった。

読んでいただき、ありがとうございます。


ノアールの「秘密」だったルナは、

この朝を境に、少しずつ外の世界とつながり始めます。


守られるだけだったノアールが、

「守りたいもの」を持った、その最初の一歩です。

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