表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/64

第24話 夜の境界線

学校から家に戻った、その夜。

ノアールは、ひとりの時間と向き合うことになる。

放課後。

部活が終わると、ノアールはいつものようにルミエールのあの車に乗っていた。


窓の外を流れる夕暮れの街並みは、昨日まで見ていたものと同じはずなのに、どこか遠い世界の出来事のように見える。


マンションの前で車を降りると、ルミエールが窓越しに少しだけ微笑んだ。


「送ってくれて、ありがとう」


ノアールが小さく頭を下げると、ルミエールは静かな、けれど拒めない声で言った。


「また明日。朝、迎えにくるね」


吸い込まれるように車が去っていくと、急に周りが静かになった。


玄関のドアを開ける。


「ただいま……」


返事はない。

ショコラは大学、ブランシュは仕事。


分かっていたはずなのに、部屋の暗さが、いつもより重く感じられた。


手を洗おうとして、鏡を見る。

胸元には、金色の三日月。


学校ではあんなに誇らしかったこのペンダントが、今は少しだけ冷たい。


お腹が空いたな、と思って冷蔵庫を開けた。


……何もない。


昨夜、ブランシュが

「冷蔵庫、何にも入ってない……。買い物、誰か行かないとね」

と、困ったように独り言を言っていたのを思い出した。


(コンビニ、行かなきゃ……)


学校での魔法のような時間は、玄関のドアを閉めた瞬間に消えてしまったみたいだ。


重い足取りで、ノアールは夜の道へ出た。


街灯が等間隔に並ぶ、代わり映えのしない道。

コンビニの明るい光に救われるようにして、自分のパンと、朝食用の飲み物を買い、店を出た。


その帰り道だった。


「……あ」


植え込みの影に、小さな影がうずくまっていた。


黒い毛並み。

自分と同じ、夜の色。


猫だった。


ガリガリに痩せていて、こちらを警戒するように見つめている。


「お腹、空いてるの……?」


ノアールは、買ったばかりのパンを少しだけちぎって差し出した。


猫は一瞬ためらったあと、ひったくるようにしてそれを食べた。


(……一人なんだね)


急に、胸の奥の「闇」が小さく疼いた。


それは悪意ではなく、ひどく純粋な、寂しさの形をしていた。

この猫も、どこにも行けないまま、ここで夜をやり過ごしている。


「……一緒に行く?」


気づけば、口に出していた。


「私とお揃いだよ。……真っ黒だもん」


ノアールは、震える手でその温もりを抱き上げた。


猫は暴れなかった。

ただ、ノアールの心拍を確かめるように、じっと身を預けてきた。


部屋に戻ると、さっきまでの暗さは消えていた。


腕の中にある小さな命の鼓動が、ノアールの胸の奥に、新しい光を灯していた。


……しばらくして、姉たちが帰ってきた。


「あ、ノアール。起きてたの?」


ブランシュがいつものように言う。

ショコラも疲れた顔で笑いかけてくる。


(学校、行けたんだよ。

友達ができたんだよ。

部活も……)


喉元まで出かかった言葉を、ノアールは飲み込んだ。


いつもなら「学校はどうだった?」としつこく聞いてくる姉たちが、今日はなぜか何も聞いてこない。


今日こそ、聞いてほしかったのに。


「おやすみなさい」


ノアールは猫を隠すように抱えて、自分の部屋に逃げ込んだ。


姉たちの優しさが、少しだけ、知らない誰かのもののように感じられた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

夜の静けさの中で、ノアールは小さな選択をしました。

この秘密が、明日へどうつながっていくのか——次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ