第20話 静かな贈り物
新しい朝は、思いがけない贈り物から始まった。
家を出る前、ルミエールがノアールを呼び止めた。
「待って」
差し出されたのは、黒いポーチ型のペンケースだった。
細長く、落ち着いた形で、表面には金色の糸の刺繍が入っている。
横向きに座った猫と、そのそばに、小さな三日月。
その下に、「LUMISORA」の文字。
どれも同じ金色で、主張は強くないのに、自然と目に残った。
「これ、私とお揃い」
ルミエールはそう言って、自分のペンケースを軽く持ち上げた。
形も色も、まったく同じだった。
ファスナーを少し引くと、黒い内布には月と星と太陽、そして猫の模様が静かに並んでいるのが見えた。
「シャープペンも」
一緒に渡されたのは、マットな黒のシャープペンシルだった。
軸には「LUMISORA」の文字と、太陽、月、星、猫のマークが金色で並んでいる。
装飾はあるのに、うるさくない。
むしろ、静かだった。
「使いやすそうに見えるでしょ?」
ルミエールは、そう言って軽く指で示した。
「これ、私も使ってる」
それ以上の説明はなかった。
「ネックレスもあるけど……」
ルミエールはノアールの胸元に視線を落とし、すぐに戻した。
「毎日使うのは、こっちの方がいいと思って」
ノアールは、ペンケースとシャープペンを手に取った。
「お揃いにはね、ちゃんと効果があるの。お守りみたいなもの」
静かな声だった。
それ以上は、言わなかった。
マンションを出ると、エントランスの前に一台の高級車が止まっていた。
艶のある黒い車体。エンジン音は聞こえない。
運転席には、人のようで、人ではないような存在が座っていた。
顔は人間なのに、どこか作り物めいて見える。
ノアールは、理由もなく目を逸らした。
少し離れた場所で、ブランシュと、後から起きてきたショコラが立っていた。
二人とも、何も言わない。
ただ、心配そうに、遠くから見送っている。
その足元で、黒猫が静かに座っていた。
誰にも気づかれないように。
音も立てずに、ノアールの背中を見つめている。
読んでいただきありがとうございます。
ノアールは、このまま無事に学校へ辿り着けるのでしょうか?




