第19話 朝のピンポーン
何かが、確実に動き始めている。
朝の静けさを破るように、インターホンが鳴った。
ピンポーン。
(……え?)
時計を見る。
まだ、朝早い。
ピンポーン。
「おはよー。迎えに来たよー」
ドアの向こうから、明るい声がした。
ソレイユの声だった。
いきなりすぎる。
ノアールは状況を理解する前に、玄関へ向かっていた。
ドアを開けると、ソレイユがいつもの調子で立っていて、その少し後ろにルミエールがいた。
ルミエールは控えめに、ソレイユの影に隠れるように立っている。
「一緒に学校に行きましょう」
小さな声だったけれど、はっきりしていた。
「私たちを、信じて」
いつもなら、制服を出しては戻し、カバンを持っては置いて、
結局行けない――そんな朝の繰り返しだった。
でも今日は、もう迷う暇がなかった。
この空気の中では、立ち止まることすらできない。
(……今日行かなかったら、もう一生行けないかもしれない)
「朝ごはんも持ってきたから」
ソレイユがそう言いながら、靴を脱ぐ。
「まだ私たちも食べてないの。一緒に食べましょ」
返事を待たず、二人はダイニングテーブルに包みを並べ始めた。
サンドイッチと、湯気の立つコーヒー。
卵サンドの、やさしい香り。
レタスとトマトとハムのサンドイッチは、色がきれいで、見ているだけで元気が出る。
(……おいしそう)
最近、食べることが楽しいと思えなかった。
歯磨きみたいに、ただの生活習慣として、惰性で口に運んでいただけだったのに。
ノアールは、不思議と手が伸びていた。
一口、かじる。
「……おいしい」
思わず声が出た。
こんなにおいしいサンドイッチ、初めてかもしれない。
前に仕事で出された高級なサンドイッチよりも、ずっと。
体の奥から、力が戻ってくる感じがした。
「ありがとう……」
言葉が、自然に出ていた。
ありがとう、なんて。
何年ぶりに言っただろう。
コーヒーはブラックだった。
苦いはずなのに、今日はなぜか飲めた。
ショコラは徹夜でレポートを書いていて、まだ眠っている。
ブランシュは気づいていたけれど、何も言わず、少し離れたところから静かに見守っていた。
ノアールは、胸の奥が少し軽くなっているのを感じた。
(……今日は)
深呼吸をする。
(今日は、学校行けそう)
読んでいただき、ありがとうございます。
次回、ノアールは無事に学校へ行けるのでしょうか?




