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第17話 光の侵入者

守ろうとしたものは、

いつの間にか「条件」になっていた。

契約書は、もう目の前にあった。

黒く、分厚く、人の人生を折りたたんだような紙。


「ここにサインすればいい」


マネージャーは淡々と言った。


「昔はさ。

“最後に一稼ぎ”ってのが、一番数字出たんだよ」


その一言の意味を理解し、

ブランシュの指が、わずかに震えた。


「……分かりました」


ペン先が、紙に触れようとした――

その瞬間。


バァン!!


扉が、内側に弾け飛ぶ。


「相変わらずね」


入ってきたのは、二人の少女だった。

先頭を歩くソレイユが、

ルミエールに、目だけで合図を送る。


「見せてあげなさい。

この人たちが一生かかっても届かない

『本物』を」


まず、ルミエールが動いた。


音楽もないのに、

彼女のステップが、部屋にリズムを刻む。

その歌声は、

ブランシュが理想としていた

「完璧な完成形」だった。


ブランシュは、息を止めた。


自分の才能が、

否定される痛みに、体が震える。


(……何、この子。

私の、理想そのもの……)


「……次は私ね」


ソレイユが、一歩前に出る。


彼女が即興で台詞を口にした瞬間、

部屋の空気が、一変した。


誰もいないはずの場所に、

数千人の観客の歓声が

聞こえるような錯覚。


彼女が指を差し出すだけで、

マネージャーも、ショコラも、

跪かなければいけないような、

神聖なまでの圧迫感。


ブランシュは、確信してしまった。


芝居じゃない。

あれは――「降臨」だ。


人間が、

練習して届く場所じゃない。


自分たちの積み上げてきたものなんて、

この光の前では、砂利に等しい。


マネージャーは、

手に持っていたペンを落とした。


その目は、

獲物を見つけた獣のように、

濁っていく。


ソレイユが、その顔を覗き込む。


「ねえ、その顔」


少しだけ、口角を上げる。


「あ、今、頭の中で

電卓たたいてるでしょ?

“これは金になる”って

気づいた顔」


マネージャーは、否定しなかった。

その沈黙が、答えだった。


ソレイユは、

机の上に、黄金の延べ棒を一本、投げ出した。


「とりあえずの手付けよ。

私の国じゃ、これは壁の材料だけど」


「これで、あの契約は破棄。

彼女たちの権利は、こっちに移す。

借金は残していいわ。

私たちが稼いで返すから」


完全に、主導権が移った。


この部屋に、ノアールはいなかった。

ただ、彼女の名前だけが、

何度も呼ばれていた。


「競争しましょう」


ソレイユは、

絶望している姉たちを、見下ろした。


「あなたたちのやり方と、

私たちのやり方。

どちらが、あの子を

“生かせる”か」


ショコラは、唇を噛んだ。

助けられた。

でも、嬉しくはなかった。


ブランシュも同じだった。

救われたのに、

自分たちが否定された気がしてならない。


ルミエールは、何も言わない。


ただ静かに立ち、

崩れかけたブランシュを、見ていた。


感情はない。

同情もない。


それでも、その視線は、

なぜか、離れなかった。

救われた。

けれど、何も終わってはいない。

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