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第15話 朝の香り

特別なことは起きていない。

ただ、いつも通りの朝が来ただけだ。

朝。


白いレースのカーテンが、

風に揺れた。


その隙間から、

やわらかな朝日が差し込んでくる。


ノアールは、

ゆっくりと目を開けた。


胸の奥に、

まだ少しだけ残る重さ。


けれど――

息は、前よりずっと楽だった。


キッチンの方から、

香りが流れてくる。


コーヒーの、

少し苦くて、はっきりした香り。


それに混じって、

トーストの香ばしさ。


……少し、

焼きすぎたみたいな匂い。


ノアールは、

小さく息を吸った。


(朝だ)


そう思えたことが、

少しだけ不思議だった。


テーブルの上には、

白いマグカップ。


側面には、

小さな黒猫のイラストが描かれている。


そこから立ちのぼる、

コーヒーの湯気。


ノアールは、

一口だけ口をつけた。


苦い。


でも――

嫌じゃない。


夜更かしした黒猫が、

ようやく目を覚ますための味。


そんなふうに、

思えた。


窓の外では、

街がいつも通り動き始めている。


車の音。

遠くの話し声。


世界は、

何事もなかったように続いている。


(今日は……)


一瞬、

「学校」という言葉が浮かびかけて、

ノアールは首を振った。


(今日は、

ただの朝)


マグカップを両手で包む。


白い陶器越しに伝わる、

ゆるやかなあたたかさ。


戻る場所は、

まだ遠い。


でも――

失われてはいない。


朝の光は、

ちゃんと、ここにあった。

読んでいただきありがとうございます。

物語は、続いていきます。

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