第9話:ポンポン森に潜む魔物掃討作戦!お金のためじゃありません!正義のためなんです!
「レリィ~♡!どうする~?レリィにならいくらでも貸したげるよ~っ♡!!」
「借りません!!」
私は両手を腰に当ててハニーさんの提案を拒否する。
「お金なんて1回借りたらキリがありません!だからやらないって決めてるんです!!お金のことは!私たちで何とかします!!」
「あ~ん、さすがレリィ~っ♡!!!しっかりしててほんとえらい~っ♡!」
ハニーさんはケタケタ笑いながら私を見つめる。
……目線がいやらしい気がするのは、気のせいでしょうか。
「うふふ、そんなレリィにグッドなニュースがありまぁ~す♡!」
ハニーさんはウィンクしながらパチンと指を鳴らした。
「いい案件があります♡」
***
「ポンポン森……!」
ホテルのロビーにて、ハニーさんはなんかおしゃれな飲み物を飲みながら言った。私たちの飲み物は、当然ない。
「うん、この街の城壁の裏にある森。最近、あそこの魔物がやたら張り切ってるみたいでさ。そこらへんに住んでる人たちが結構困ってる、ってわけ」
「魔物!!」
「そそ。まあ一応、ここの自警団も森の管理はしてるみたいだけど……わかるでしょ、ほら、城壁の外だからさ、まあ、ガチ本気っていうわけじゃないっていうかさ」
ハニーさんはまたぐびりと飲み物を飲んだ。
「だからさ、森の方の住人たちがお金を出すから魔物どもを退治する人を募集してるってわけ。どう?興味ある?」
困っている人たちがいる。しかも、魔物に。
「もちろん!!!やります!!!」
私は力強く立ち上がる。
「魔王の影響が強まる今、魔物が活発化している……これは、間違いなくその兆候です!!それを見過ごすわけにはいきません!!!やりましょう!!!」
「やったぁ~♡!さすがレリィいいいっ♡!そういうところだ~い好き!取り分は半々ね♡!大丈夫、半分でもホテル代くらいはあるから!」
ハニーさんはそう言ってウィンクした。
間違いなく、これは私たちの仕事です!
「さあ皆さん!打倒魔王パーティの出番ですよ!行きましょう!」
「は……ダル……」
「何言ってるんですか!行くしかありません、ポンポン森に!!!」
「……てかさ、なんでこのバカが溶かした金を俺が取り返しに行かなきゃいけないんだよ……」
「……」
「へえ……ドルトさん……反省しているんですね……」
「まあ、てことで俺パス……。寝てる……」
「ユートさん!!困ってる人がいるんですよ!?」
ユートさんはけだるげに、自室に戻っていきました。
「仕方ありません……。マチル、兄さん、行きましょう!まずは現地偵察です!!世界を救いましょう!!!」
「世界救うなんて……どうせ無理……魔物の餌になる未来しか見えない……救う意味もない……どうせ皆終わるんですから……」
「マチルさん!大丈夫ですよ、その運命を私たちが変えるんですから!!!」
私の呼びかけも虚しく、マチルもふらふらとどこかへ行った。
「ユートさん、マチルさん……。ううん、大丈夫、切り替え切り替え!兄さん、行きましょう!!ポンポン森の人たちを救うんですよ!!!」
「ああ、うん……そうだな……ごめん、ほんと……」
「あはっ、ドルト珍しく元気ないじゃん!まあ誰が行こうがOKです♡!魔物を解決して報酬をゲットするのです!それじゃレリィ、頑張ってね♡!」
「はい――行きましょう、兄さん!ポンポン森の皆さんを救いに!!!」
***
昼下がりのポンポン森。
空はどんよりと曇り、心なしか空気が重くて――まるで、森そのものが重たく息をしているよう。
「ハニーさんの話によると魔物はここらへんを歩くだけで襲ってくるそうですが――」
「なあレリィ……マジでごめん、あと……ありがとう」
兄さんが背負う背中の槍が、いつもよりも重そうに見えた。
「何を謝ってるんですか!人々を救う大事なご依頼ですよ、ほら張り切っていきましょう!!」
湿った風が吹く。違う。吹いていない?
なんか、変――
――ギィィィィイイイイイイイイイッツツツ!!!!
空気を割る叫び声。
森の奥から現れた、異形の魔物。
いや、魔物”ども”。
木陰、草むら、地面の裂け目。
次から次へと、不遑枚挙の怪物どもが押し寄せてくる。
毛皮はところどころ剥がれ、むき出しの筋肉が脈打つ猿のような魔物の大群。
少し酸っぱい血と肉の匂いが、鼻を刺す。
「レリィ!援護頼む!!」
兄さんが槍を抜いて、突っ込んだ。
「――ッ!!兄さん!!」
兄さんは一直線で魔物に向かう。目にはたぶん、もう魔物しか映っていない。
慌てて、詠唱に入る。
「光流るる麗しき塵の精霊よ、荒々しき魂に慈悲の加護を――”インデファティガブル”」
筋力強化魔法。
私の杖が光に包まれ、そして兄さんは加速する。
自分の中の、全ての魔力の流れを意識する。
いける、集中しろ、まだ余裕だ。
「川底の石に渦巻く小さな精霊よ、どうか彼の戦士に砕けぬ壁を――"アイアン・フォート"」
防御強化魔法。
杖から放たれた光が、前方で槍をふるう兄さんを包み込む。
大気の呼吸、精霊の流れ。
全てが兄さんの力を最大限増幅させるように。
「陽光におわします慈悲の精霊よ、その清き息吹で我らを包み込みたまえ――"サンライト・ヴェール"」
微量継続回復魔法。
3つの魔法の重ね掛け。
空気の中に漂う精霊の声を、聞き逃さないように。
あの魔物どもの叫び声が、大気の流れの中にできた精霊の道を途切れさせないように。
私は、杖を振るって精霊を導く。
兄さんが、魔物を正確に槍で貫く。何体も何体も、一秒間に一体、いや、時には三体、正確に心臓を貫く。それを何十秒、いや何百秒も繰り返す。
まるで呼吸するかのように一歩を踏み出し、そして引く。
魔物の爪を肩に受ける。気にしない。
私の魔法が肩を癒す。一歩踏み出し突きを放つ。
息が切れる。それでも息を吸う。槍を回転させ、横薙ぎに魔物を払い、一体、二体、三体、魔物どもは血飛沫を上げて崩れ落ち、土に還る。
何分、いや、もしかしたら何時間、それを繰り返した。
空の雲は厚くなり、ぽつりぽつりと雨が降り出した。
手が震える。目がかすむ。精霊の声が、わからない。
魔物は――木陰から、草むらから、地面の裂け目から、息をする暇もなく湧き続けてくる。
「兄さん……ッ!!もう、わ、私、限界です……ッ!!!」
手足の感覚が鈍くなる。
頭が冷たくなる。
視界が、暗くなっていく。
兄さんが振り返った気がした。
次回→ 第10話:脈打つ森の謎!そんなお話があるなんて!
6月4日(水)夕方更新!