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第7話:ポジティブ教の末路!伝道師(?)パッソ、絶体絶命!

「ポジティィィィィブ!!ポジティブゥゥゥゥ!!!」


朝日が昇るポンズ街道。

小鳥がさえずり、優しい風が草花を揺らす、爽やかな朝。


「ポジティブ最強!!!今日も最高!!みんな、笑顔でいきましょーーっ!!」


街道を全力でスキップする私、レリィ・アーネスト!

服はもちろん、ポジティブシャツ。


ああ、小鳥さん、どこへ行くの?

ポジティブ、感じましょうよ!!


「ポジティブ!笑顔!前向き!ハッピー!!」


通りすがりの農民さん、買い物帰りの奥様、おはようございます、そしてはじめまして!!!

これがニュースタイルの私です!


「お、お前さ……」


引きつった顔でこちらを見ているのは、ユートさん。


「いや……もとからポジティブバカだったけど……これは……」


「ポジティブ!!ユートさんも、笑顔です!!」


「は……?」


「兄さんも!さあ!拳を突き上げて!!!ポジティィィィブ!!」


「くそっ……もう2日も打ってねぇ……!」


何かを呟きながら、頭を抱える兄さん。ポジティブに生きればいいのに!!


そして、マチル。


「……レリィさん……」


マチルが、低い声で私を見つめる。


「……気色悪い……」


――この日、私は世界を変えるため、突っ走っていた。

誰よりも、前向きに――!!!


***


少し歩く。なんだか今日は皆さんおかしい。

それとなく、ユートと兄さんから離れて、マチルに近づく。


「マチル、皆さん今日、さすがにおかしくないですか……?テンションが!!!低すぎます!!!世界はこんなにもポジティブに満ち溢れているのに!!!ポジティブポジティブウゥゥゥ!!!!!」


「変なのは……レリィさんだと思いますけど……」


変!?!?!?!?私が!?!?!?!?!?!?!?


何を言っているんですか、マチルさんは!!!

ポジティブをわからせないと!!!


「マチル、そうだ!これ、着てみませんか!!」


私は、リュックからポジティブシャツを取り出して、マチルに向けてグイッと突き出す。

皆さんのために4枚も買ったんですからね!!!私は最強ポジティブです!!!


「絶対いや」


マチルは顔をひきつらせて、必死に後ずさる。


「気色悪い!!近寄らないで!!!」


でも、私は止まらない。


「だめですマチル!!ポジティブこそ最強なんです!!着れば、わかりますから!!」


「やめて……やめて……!」


震えながら、マチルは必死に拒否する。


「ほら、ほら、着てみましょう!!一緒にポジティブ!!ポジティぃぃぃぃぃブ!!!!」


ついに、私はマチルを押し倒す。

小刻みに震える腕をつかむ。

大丈夫です、安心してください。着れば全部わかりますから。

ポジティブになれますからね!!!


「ひっ……!!!いや……ッ!!!」


マチルのやたら厚い黒色のローブをめくる。


「……ッ!」


その時。


マチルの、震えが止まった。


「……レリィさん、これ。ああなんだ、そういうこと……くだらない、終わってる……」


マチルが何かをつぶやく。


「……闇夜に生まれた幼き精霊……因果の環よ巡れ……主人のもとに返り咲くがいい…… ”反呪詛(ネメシス・リターン)”」


空気が弾ける。


シャツが、ふっと軽くなる。


……?


頭が、ぐらりと揺れる。


なんか、変だ。


私、今まで何を……?


「呪詛です……。そのシャツ、あと、たぶん昨日のチラシも……呪われてました。レリィさんは呪いでおかしくなっていたんです」


「え……?」


状況が、うまくつかめないけど……私は今、たしかにマチルを押し倒している。


「えっ、えっ……!ごめんなさい、マチル!!!私、なんてことを……!!!」


手に持っているシャツを見る。

よく見れば、スカスカな麻のチープな生地に、炭で”Be Pozitive!”と書いてあるだけ。

どう見ても10000シルのクオリティじゃない。


「気にしないでください……呪い、かけたヤツが終わっていますから……」


そう言ってマチルは立ち上がり、ぶつぶつと恨み言を言っていた。


「呪詛でこんな気持ちの悪いものをまき散らして……。終わってる……。絶対、呪ってやる……」


***


「まあお前、もともとおかしいけど……でも、呪いってすげえな……こわ……」


「あんな詐欺まがいで金稼いでやがったなんて……う、うらや……いや、許せん!!!」


私は、事情をユートさんと兄さんにも話して、謝った。

この打倒魔王パーティを導く私が洗脳されてしまうなんて……不覚……!


「私、騙されてしまったようです……」


「まあ……お前バカだし。騙されやすそうだし、キャラ通りだったんじゃん……」


私は手に持ったポジティブシャツをぎゅっと握りしめる。

炭文字の”Be Pozitive”がやけに虚しい。


その時。


「あいつ……見つけた……」


マチルの声に、私たちは一斉に顔を上げた。


街道の先。パッソが、城塞都市の人ごみに紛れようとしていた。


「アイツ……!!!逃がさねぇッ!!!!!!」


兄さんが、ものすごい勢いで走り出した。


「慰謝料払えやコラァ!!」


すぐに、兄さんはパッソの肩をガッチリつかむ。


「な、なんだ!?俺は何も悪いことしてな――」


「……その腕の痕……”精霊の悪戯”……呪詛返しを受けた証……」


マチルが、静かに近づきながら、ボソリと呟く。


パッソの腕――そこには、黒ずんだ痣のような痕が浮かんでいた。


「ま、待て……これは違う……これは――」


「フフ……」


マチルは、ローブの袖をゆっくりとまくり上げる。


「返してあげる……“全部”……!」


マチルの手が、闇色に染まる。


「闇夜に沈む千の咎……眠れるあどけない精霊よ、因果の輪を解き放て……」


「わ、わかった、わかったよ……払えばいいんだろ……!?ほら!!」


「――”反呪詛・真(ネメシス・リバース)”」


ドン、と空気が震えた。


パッソの背負っていた荷物――チラシ、Tシャツ、販売道具、そのすべてが黒く染まり、ズシンと地面に落ちる。


パッソは――その場に、倒れこんだ。


やっぱりマチルは天才です。

私たち全員が本気を出して全力で挑めば、魔王討伐も全然夢じゃありません。


「フ……フフ……これこそ呪詛……因果応報の極み……美しい……!フフ、フフフフフ……!!」


***


パッソがよろよろと去って行ったあと。


「はぁ……」


私は、胸に手を当てる。

未だに少し震えている心を、そっと押さえる。


「マチルさん、みんな……ありがとうございました。私、ポジティブにとらわれすぎていたみたいです……」


「……昔から、そうじゃん……。魔王倒すとか……普通の精神状態じゃ思わない……終わってる……」


マチルはそう言って、ふいっと横を向く。

……マチル。


「うん……!ですよね、そうですよね!!!私、学びました!本物のポジティブって、あんな嘘じゃなくて……きっと”本音”から始まるものなんですよね!!!私、また一つ賢くなりました!!!」


「え……?どういう論理でそこに行ったのか……意味がわからないけど……」


「マチルさん!いいんです、細かいことは!さあ、行きましょう!!!」


兄さんが手を組んで背伸びをする。


「城塞都市ポンズはすぐそこだ!!ふふ、軍資金も稼いだし……!楽しみすぎるぜ!!」


「いや、軍資金って……」


ユートさんはいつものように冷めた目でため息をつく。


「てかさ……なんでこの世界、あんな変なのが野放しなんだよ……。警察とか、まともに動いてねーの?」


「もうっ、終わったことは良いじゃないですか!さて、行きましょう!城塞都市ポンズへ!!」


私は、そびえたつ門を見上げる。


まだ見ぬ次の町。

魔王城まで、まだまだ遠い道のり。


でも、進むしかないんです。私たちは、打倒魔王パーティなんですから。


「いざ!!ポンズへ!!!」


門からこぼれ出る人々の熱気、屋台の匂い、陽気な音楽。


私たちは、橋を抜けて。今、門を越えた。

お読みいただきありがとうございました!!!


次回→ 第8話:ポンズ到着!魔物の噂とまさかの罠!

5月30日(金)夜更新!


また読んでいただけると嬉しいです……!反応等もよければぜひ!

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