第6話:これが運命の出会い!?ポジティブ伝道師パッソ参上!
春風に吹かれ、城塞都市ポンズへの一本道を歩く。
魔王城へ、着実に一歩ずつ、近づいている。
そう思うと、胸が高鳴る。
「いやぁ~!最高ですね!!」
「うるさ……」
ユートさんは、相変わらず後ろでダルそうについてくる。(でも、ちゃんとついてきてくれてるんですよ、この人)
「お、見えてきたな!あれが城塞都市ポンズの外壁か!」
「わあ兄さん、さすが目がいいですね!くぅ、ワクワクが止まりません……!!!着いたら絶対豪華なホテルに泊まりましょう!ね!!」
「いや、ちっさ……遠すぎ。いつ着くんだよ……」
「……一日中歩くなんて、終わりよ終わり……」
そんな会話をしながら、私たちは歩いていく。
「オーーーーーーーイ!!!」
突然、前方から叫び声。
「笑顔で世界を変えよう!!!君たちも、ポジティブの力で未来を掴むんだ!!!」
現れたのは、小麦色の肌にサングラス、そして口元にはギラギラの白い歯を光らせた、異様にテンションの高い男。
ポロシャツには、”Be Pozitive!”という刺繍。
手には、チラシ束。背中には、たくさんの荷物。
「は、は……!?」
思わず私たちは立ち止まる。
男は、私たちに向かって、一歩、また一歩と近づいてきた。
「こんにちはーーーっ!!!笑顔、足りてるかーーーい!!?」
「ポジティブで、世界を変える!!私はパッソ、ポジティブ伝道師だ!!よろしく!!!」
そう言うとパッソさんはギラギラのサングラスをクイッと上げ、チャーミングな笑顔を見せた。
「ポジティブ……伝道……師……?」
私は思わず、呟いた。
ポジティブ伝道師。つまり、ポジティブを世界に伝える者。
私は、常日頃から思っていた。
前向きに生きることは、世界を明るくする、と!!!
つまり、この男こそ、私が目指すべき目標!!
グッとこぶしを握り、彼を――パッソさんを見上げる。
「ポジティブ!!最高です!!」
パッソさんは、私に親指をグッと立てた。
「その調子だ、お嬢さん!!ポジティブこそ、世界を救う!!」
「は……?寒気がする……」
マチルの、凍るような声が背後から聞こえた。
でも、私は気にしない。ポジティブですから!!
「いや……てかシャツのPo”z”itive……スペル違うだろ……」
ユートさんは、もはや聞く気ゼロでだるそうに片足を適当に動かしています。
「ポンズの新台入替いつだっけ……」
兄さんは、たぶん聞いてません。
でも、私はポジティブなので問題ありません!ポジティブイェイイェイ!!!
「これ、君たちに!!」
パッソさんがチラシの束から一枚、私に手渡してくれた。
これまたつやつやした光沢紙に、「ポジティブ伝道計画!!世界を笑顔で埋め尽くそう!!」の文字。
私は、何気なく受け取る。
「ポジティブ伝道計画…?」
「あんたたちも、どうだい?」
パッソさんは、マチルたちにもチラシを差し出す。
「気色悪い……終わりですよ終わり……」
「いらね……」
「え?なんか言った?」
「ハハハッ!!照れるな照れるな!!!……まあ、私はこれでお暇するとするよ。じゃあな君たち、また会おう!!」
パッソさんは、そう言うと陽気に道の先へ歩いて行った。
私はというと……チラシから、なぜか目が離せなかった。吸い込まれるよう。
ポジティブ伝道計画――。
すごい。これは、絶対に世界を変える。
「皆さん!!笑顔で世界を変えましょう!!!ポジティブこそ最強!!!」
私は意気揚々と振り返る。
「はい、ユートさん!ちょっと笑顔の練習です!ほら、口角上げてーっ!!」
「は?」
「マチルさんも、ニッコリニッコリ!!笑う門には福来ますよ~!!!」
「……な、何……?バカにしてるの……?」
「兄さんもポジティブポジティブ!!明るくなれば依存症からも抜けられますよ!!!」
「はあ?依存症って何の話だよ」
「ほらほら皆さん!!!ポジティブになればきっと世界は――」
「うるせぇ!!!」
ユートが叫んだ。
「お前、さすがにおかしくねえか……?」
知りません。ポジティブは世界を変えるんですもの!!!
「ポジティブ!ポジティブ!ポジティブゥゥゥゥ!!!!」
道の真ん中で、私はチラシを両手に掲げ、叫び続けた。
***
翌日。
本日も快晴。
やっぱりポジティブは天候までも引き寄せてしまうんですね!!!
そんな道中、またあの声が響いた。
「ポジティーーーーブ!!!世界を変えろ!!!」
……あ。
人だかりの中に、パッソさんがいた。
昨日より、さらに気合の入ったポーズで道端に立つ彼。
その足元には……山積みの白いシャツ。
横には、「今日だけ!特別価格!ポジティブTシャツ、1着10000シルぽっきり!!これを着れば、君も笑顔パワーで未来を掴めるぞ!!」の手書きの看板。
ポジティブ、あふれてます。
「出た……やべぇヤツ……」
ユートが、明らかに関わりたくないって顔で呟く。
でも私には、そんなの関係ない!
「おおおお……すごい、すごいですよ皆さん!!!」
「いや、待てお前……」
「お金なんて、関係ありません!ポジティブは、プライスレスなんです!!」
息を吸う。
「4枚ください!!!!」
「は?お前マジ???」
「終わりですよ……終わり……」
「まいどぉッ!!!」
私はパッソさんに40000シル手渡して、4枚のシャツを受け取った。
パッソさんは、40000シルを売上金の箱にしまう。
「あの箱……いくら入ってるんだろう……もし俺があれを……」
……兄さんが何を凝視してるのは知りませんが、私は手に入れました!
ポジティブのかけらを!!!
「パッソさん!!私も、笑顔で世界を変えます!!!」
パッソさんは、私の方を見て親指を立てた。
ユートさんが呆れた顔で私を見ていた気もしますが、無問題!!!
「FOOOOOOOOOOOOOH!!!!私、もはや世界を救いました!!!」
お読みいただきありがとうございました!
次回→第7話:ポジティブ教の末路!伝道師(?)パッソ、絶体絶命!
5/28(水)夜更新!
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