第22話:打倒魔王パーティ、作戦会議です!つかめ!キャヴィのしっぽ!
朝。木漏れ日が、居間へと静かに差し込んで私とハニーさんを照らす。
湯気の立つお茶の香り、焦げた魚の匂い、そしてハニーさんのお酒の匂い。
いつもと変わらぬ朝の風景――でも、違う。
昨日の夜の襲撃。
キャヴィの脅威。
今のままの私たちじゃ倒せない魔物。
あのままじゃ、死ぬところだった。
「ハニーさん、少しいいですか」
そう言って、私は立ち上がり、囲炉裏の向こうに座る彼女へと歩み寄る。
ハニーさんは一升瓶を湯呑へと傾けながら、こちらをちらりと見る。
「ん?どうしたの、レリィ♡?」
私は、まっすぐに彼女を見据えた。
「キャヴィを倒すために、協力してくれませんか。私たちの力はキャヴィに不利で、ハニーさんの力はキャヴィにすごく有効です」
「やだ♡」
即答だった。
「ど、どうしてですか!」
一瞬、湯呑を持つ手が止まった気がした。
でも、それはほんの一瞬で、すぐにあの笑顔に戻った。
「気分♡」
ハニーさんはそのまま、お酒をあおる。
「それじゃあ理由になりません!」
「そうかな~?でもね、あたしは……おばあちゃんとそれなりに楽しくやってるんだよね。お酒飲んで気持ちいいし♡」
ハニーさんが笑う。
「レリィもやめときなよ~!おばあちゃんは私が守るからさ、問題ないって!ね、レモン村に帰ってもいいんだしさ♡」
「帰りません!キャヴィは絶対に私たちが倒します!それが、世界を救う私たちの使命なんですからね!!!」
ハニーさんの力が借りられないのなら、仕方ない。
私たちでやるしかない。
大丈夫、私たちならできます。
作戦を立てて、必ずやり遂げます。
打倒魔王パーティ、ファイトです!!!
***
外に出ると、昨晩のことが嘘みたいに空気が澄んでいた。
フイさんの家の前、朝のもやで軽く湿った土を踏みながら、私たちは森の手前に並んでいた。
「やっぱり、私たちでやるしかありません!」
私はそう言って、皆に向き直った。声を張る。
「今できることを全力でやって、キャヴィを倒す方法を探しましょう!」
風が吹いた。
兄さんは木に寄りかかり、あくびをしながらも――立っている。
ユートさんは相変わらず無表情で、地面をつつく靴のつま先をぼんやり見ているけど――布団から出てきた。
マチルはフードを深くかぶってしゃがんでいた、けれど――こっちを向いていた。
誰も、「やらない」とは言わなかった。
「お前の”作戦”さ、無理があるだろ……」
ユートさんが口を開く。
「お前が囮になって、攻撃されている隙に俺が爆撃打って……って。キャヴィの攻撃で脆くなったバリア、俺の爆発に耐えられないんじゃねえの……」
「頑張るから大丈夫です!」
「……わたしも、ユートに賛成……レリィさんが、危険すぎるから」
「マチル……!」
「てか囮なら俺の方がよくね?一番動けるだろ、たぶん」
みんなが、話し合っている。
何でだろう。ただ、話しているだけなのに。
目頭が、ちょっと熱い。
「マチル、呪いで何とかキャヴィ殺れねえの?」
「フフフ……無理……。せいぜい、遅くするくらい……。魔物なんて呪い殺したら……わたしが死ぬわ……フフフ……わたし、まだ死にたくないの……フフ……ッ」
「は、何で笑ってんだよ……?」
兄さんの質問、マチルの回答、ユートさんの突っ込み。
打倒魔王パーティは、今日始まったのかもしれません……!
だめですレリィ!今はそんなことに感動している場合じゃなありませんよ!
策です!キャヴィを倒す、策。
でも、私には囮作戦以外に、有効な策が思いつかない。
ふいに、兄さんが口を開く。
「キャヴィ、分析しねえ?」
「分析、ですか?」
「思うにさ~、データが足りねえだろ。データっちゅーのはな、敵を倒すために一番重要なんだ。良い設定がどの日にどの台に入っているか……それを掴むのがデータだ」
「何の話だよ……」
「へっ、でもわかるだろ?」
「……行動パターン、生態……そういうのを、調べるってことね……。あの魔物を葬るために……フフフ……」
私は、胸の前で手をぎゅっと握った。
「そうですね、うん……!ありがとうございます、皆さん!」
顔を上げて、みんなを見る。
「私たちなら、絶対につかめます、キャヴィのしっぽ!」
みんなと目が合う。みんなの目が、いつもと違う気がした。
「私、ずっと知ってました――私たちは、どんな強敵にも立ち向かえる、最高のパーティです!!!」
杖を、青空に向かって突き上げる。
――さあ、行きましょう!キャヴィの弱点を、掴むのです!
次回→第23話:ついに掴んだ撃破のヒント!私たちなら絶対に!
7月4日(金)更新!




