表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/27

第20話:オロシ村の脅威!魔物キャヴィとレリィの決意!

朝の山道。

少しだけかかっているもやが、太陽光をきらきらと反射している。


「よしっ!今日は最高の調査日和ですね!!」


私は腰に杖を下げ、道の先を指さす。


「レッツゴーです!フイさんを救いましょう!私たちが解決するんです!!」


「山かよ……台の光が恋しい……」


兄さんが何か言ってます。

でも、ちゃんと来ているのでOKです!


「まあ……散歩って思えば、ギリ」

「まぶしいのよ、朝から……。こんなの、終わってる……」


ユートさんは相変わらず生気のない目をしているし、マチルさんはフードを深くかぶって足取りが限界に重い。

でも大丈夫!みんな歩いているし、私たちならきっとやれます!


山道は細く、ところどころで石が転がる。

鳥の声が時折響き、風が葉を揺らして通り抜ける。


「さあ皆さん、気を引き締めて行きましょう!魔物キャヴィの手がかりを見つけるんです!」


私は先頭に立って、枯れ枝を踏み分けながら進んだ。


***


しばらく歩いたところで、ユートさんがぽつりと呟いた。


「なあ……そもそも魔物って、何なんだ?ただの動物と何が違うんだよ」


そうか、そいうえばユートさんは異世界の人。

馴染みすぎていて忘れていましたが、魔物について知らなかったんですね……!


「魔物は、魔王が生み出した存在か、あるいは魔王の影響で変質してしまった生き物です」


「はあ?」


ユートさんが、気だるげに目を向けてくる。


「たとえば、ユートさんが最初に倒したドラゴン。あれは、異常なほど魔力(エイデア)が乱れていて、見るなり襲ってきました。あれは、魔物です」


「えいであ……?」


「ポンポン森のルクシマルも魔物だな」


(珍しく)兄さんが補足する。


「そうですね、あの魔力(エイデア)の流れは異常でした!ユートさんも見たでしょう、無限に沸いてくる猿の魔物。あれは明らかに魔王の影響です!」


「よくわかんねえんだけど」


うーん、説明が難しい!

今度何か本を買うべきでしょうか?


「じゃあさ、あの池のダークネスバス?あれは?」


ユートさんの質問に、マチルが小さく答える。


「……あれは、ただの危険生物……」


「は?違いが全然見えねえよ」


「まあ!だいたい凶暴で人をすぐ襲うやつは魔物ですね!特に、今回のキャヴィみたいに――ここ最近で急に力を増したやつは、ほぼ間違いなく魔物です!」


「……意味わかんねえ」


ユートさんが吐き捨てるように言う。


「てかさ、そもそも……魔王って何なんだよ」


「それは……」


私はしばらく黙った。

魔王の正体――。


「――わかりません。でも、魔物の元凶であることは確かです。だから、私たちはそれを……終わらせなければいけないんです」


「……ふーん」


ユートさんは、興味なさげにそっぽを向く。

魔王。本当に、何なんでしょうか。でも、魔王が魔物を生み出し、凶悪にしているのは確かであり、誰かがそれを止める必要がある。

誰か、つまり私たち。


私たちが魔王を倒し――世界を、救うんだ。


***


枯れた枝がパキ、と折れた。

私たちは深い森の中に足を踏み入れていた。

空は昼の青さをまだ保っていたけれど、木々の影が伸びていて、陽が差す場所はまばらだった。


「……なんか、嫌な感じ、する」


マチルが歩みを止めた。

たしかに。鳥の鳴き声が、聞こえなかった。

風の音すら、遠い気がした。


「……!!……レリィ……前を見るな」


兄さんの、無理やり出したような――声がした。何かを、見ていた。

私は、その視線の先に目線を映した。

落ち葉が、地面をくすんだ緑に染めている。


その上に。


息をのむ。

目が閉じれない。

視界が、震える。


その上には――。


内臓。


引き裂かれた毛皮と、露出した骨。

すぐ隣には、真っ黒に変色した血の染み。

粉微塵の頭蓋。

もうほとんど腐臭はしなかった。でも、それがかえって生々しさを際立たせていた。


無秩序に引き出され、千切られた内臓が、くすんだ緑色の地面の上に、ひっ散りばめられている。


「うっ……」


マチルが口を手で押さえている。


「こんな――ひどい」


口からは、それしか言葉がこぼれない。


明らかに、動物の仕業ではない。

凄惨。

目的のない、破壊。

魔王の影響――魔物の、仕業だ。


「なあ、これ……」


ユートさんが、何かに目を向けている。

その顔面は、いつもに増して、真っ白だった。


その目が向いていたのは。


壊れた靴。


人間のもの。


「……なあ、レリィ」


兄さんが、低い声で言う。いつもの冗談めかした様子は、抜けていた。


「これ、マジでヤバいだろ……関わるべきじゃない」


私は、即座に返事ができなかった。


――キャヴィ。確実に、魔物。

獰猛。そして、そこら中に残された魔力(エイデア)の残渣。


「こんなの、俺らが何とかする問題じゃないだろ……こんなヤバいなら、もっと……国とかが何とかするもんじゃねえの……」


ユートさんが目をそらす。

私は、口から声が出ない。


空はどこまでも青かった。

大地は――赤黒かった。


***


日が落ちる頃、私たちはフイさんの家に戻ってきた。


山の端に太陽が沈みかけ、空は橙色に染まり始めている。

靴の裏には、森の湿気がまだ残っていた。

私は何度も息を吸ったが、それでも胸の中の重さは抜けきらなかった。


家の扉を開けると、囲炉裏の香ばしい匂いが鼻をくすぐった。


「おかえりなさい」


火のそばに座っていたのは、フイさん。そしてその横で、鍋を見つめる――ハニーさん。

鍋の蓋がかすかに揺れ、中からくつくつと湯気が立ち上っている。


「冷えたろう。さ、食べなさい」


フイさんが、やさしく声をかけてくれた。


私は何も言えず、ただ頷いて座布団に腰を下ろした。

ユートさんは無言で、だるそうに鍋の方に手を伸ばす。

兄さんは一度ため息をついてから、おたまを取った。

マチルは囲炉裏の炎を見つめている。どこか遠くを見るように。


ハニーさんは、一度ちらりとこちらを見た後、ずっと黙っていた。

視線は、鍋の中。笑いも、軽口もない。

その横顔が、遠くに感じた。


私は、火を見た。

ぼう、と炎が揺れる。

その奥に、今日見たあの痕跡が焼き付いている。こびりついている。

引き裂かれた体。かすかに残る、すえた匂い。黒く固まった、かつての生命の残骸。――誰かの、靴。


――あの魔物は、このままにしてはいけない。


鍋の中には、鴨肉とねぎが煮えている。

鴨は、ハニーさんがとってきたのだろう。

湯気が、目にしみる。

私は少しだけ目をこすり、そして鍋を見つめる。


(絶対に……この人を守らなきゃ)


私の心の中で、誰かが、そっと言った。


(誰かが、やらないと)


炎がぱちりと爆ぜた。

誰も何も言わない。

鍋の中の湯気は、変わらずに立ち上っていた。


(誰か、は、私たちだ。私たちには、その力があるから)


鴨肉を口にする。

フイさんの顔を見る。

深いしわに隠された表情は、わからない。

でも、どこまでも穏やかだった。


(私が、この人を守る)


――魔物キャヴィを、倒します。

次回→第21話:翻弄!襲い来る不気味な影・キャヴィ!

6月29日(日)昼過ぎ更新!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ