表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/27

第2話:新生!打倒魔王パーティ!私たちならきっとでき……ますよね?

あのガチャを引いた日から――1か月。


あの日、私は全財産をはたいて「勇者ガチャ」を回した。

私たちを導くカリスマ勇者を呼び出すために。


――なのに。


「はぁ……だる……」


目の前には相変わらずゴロゴロと布団に埋もれる一人の男。

あのガチャから出てきた、私の全望みをかけた”勇者様”。

この1か月であった進展といえば、彼の名前と、職業(召喚前の)くらい。


サカタ・ユート。「ユート」が名前らしい。

で、職業は「コーコーセーモドキ」。何をしているのかはよくわからなかったが――彼曰く、「布団でゴロゴロする仕事」とのこと。

なんだその仕事は……!


風呂、食事、トイレ以外――

彼はずっと、布団から出てこない。


「ああレリィか……。なあ、今日の飯、何?」


……。またこのセリフ……。


「グラタンです。……それと。これから鍛錬をするので、来てください。いくら勇者様といえど、力を鍛えねば!!」


「……寝る」


……。

いや……まだです!全然終わってません!

ユートさんが今日のグラタンに感動して、この世界の危機を救いたいと思えば!まだ希望はあります!!

さあ、切り替え切り替え!


「兄さん!そんなところで寝てないで、鍛錬しましょう!世界を救う日は近いのです!!!」


私はソファで寝転ぶ兄さん――ドルト・アーネストに声をかける。


「無理。今日は金曜日だから……わかるな、『勝負の日』だ。今日こそ勝てるんだよ!!!」


……。またか。


「それ……毎週言ってますよね」


「今日こそ勝てるんだ!なあ、俺に投資しねえか?あのガチャに金を突っ込む前にその金を俺に渡してくれれば……お前は無限にガチャ回せたんだよ!!」


「あ、頭が痛い……。とにかく、私は畑の向こうで鍛錬してますから、来てくださいね」


私はそっとドアを閉めて外に出る。

そして、マチルの家に向かう――わかってます、でもダメもとです!チャレンジ精神が大事!!


「マチルー?元気ですかー?」


静かな部屋。

覗くと、今日もマチルは床にべたりと座り込んでいた。


「……ああ……世界、終わらないかな……」


「え?」


「どうせ終わりなんだから……早く終わればいいんですよ……早く……」


「マチル!まだ何も終わっていませんよ!むしろこれからです!私たちが未来を変えるんですから!」


「無理ですよ……何やってもどうせ無駄……」


「と、とにかく!鍛錬、しましょ!動けば気も紛れますって!ね!」


大丈夫。

大丈夫、の、はずです。


私は知っているんです。

みんな、本当はやればできるって。

……たぶん。


「さあ!!今日こそ本気を出しましょう!レッツ鍛錬!準備ができたらいつでも来てください!待ってますから!」


***


「聖なる精霊よ、生命の息吹を……ヒール!!!」


雲一つない青空に、私の声が吸い込まれていく。

一人。いつも通り。


でも、今日の私は!昨日までの私とは違います!

なぜならば!私は毎日進歩しているから!!!


「さあ皆さん!!準備は整いましたか!?」


勢いよく振り返る。


……。

誰もいない。


大丈夫、大丈夫、焦らない。

皆さん、ちょっとやる気が足りないだけ。

何かきっかけがあれば、絶対に魔王を倒せます。


もう一度、気合を入れなおす。


「聖なる精霊よ、生命の息吹を……ヒール!!!」


柔らかい光が、自分に降り注ぐ。

もちろん、傷一つない私には何の意味もありません。


……みんな、来てくれても……。

……。


「聖なる精霊よ、生命の息吹を……ヒール!!!」


……。


――ガサッ。


木陰から、音。

現れる影。


「……何してんの」


「ユートさん……!」


思わず駆け寄る。

ついに、ついに……!!


「来てくれたんですね!さあ、鍛錬を始めましょう!千里の魔王も一歩から!!」


「……いや……なあ、なんでそんな頑張るの?」


いつものだるそうな顔のまま、ユートさんはそう呟いた。

私の、頑張る理由――。


そんなの、決まってる。


「世界は”救世主”を求めています。魔王は、着実に力を強めている」


こぶしを、握りしめる。


「他の誰かを待っていても、何も変わらない」


唇を、噛む。


「だから――」


「私たちが、やるんです」


一歩を、踏み出す。

笑顔を向ける。


「さあ、ユートさん!やりましょう!私たちが、魔王を倒す英雄になるんです!」


そうだ、他の誰でもない。

私たちが、やるんだ。

私たちなら、できる。

みんなが一丸となれば、絶対に――!!


「興味ない」


ユートさんはこれまたダルそうな顔で……帰った。


え!?嘘でしょ!?この流れで!?


……もうっ!!


「聖なる精霊よ、生命の息吹を……ヒール!!!」


私の声が、青空に虚しく吸い込まれた。


***


次の日。

相変わらず、誰も鍛錬に来ません。

もうお昼の11時だっていうのに、ユートさんはまだ寝てるし、マチルは部屋でフローリングの枚数を数えているし、兄さんに至ってはどこにいるのかもわかりません――。


でも大丈夫。

明日、明日こそはきっと皆わかってくれる。


「あらレリィちゃん、今日も一人で特訓?えらいねえ、本当に」


マチルの家から鍛錬場――といっても、畑の隅っこだけど――に向かう途中。

そう声をかけてきたのは、優しそうな茶髪の、細身の女性――。


「マチルのおばさん!いつもお世話になってます!」


「ほんと、レリィちゃん、いつもマチルを気にかけてくれてありがとうね。あの子、少し気にしすぎるところがあるから、レリィちゃんみたいなしっかりしてて前向きな子が一緒にいてくれてありがたいわ」


「いえ!マチルは世界を救う力を持ってますから!明日こそは、一緒に鍛錬するんです!」


おばさんは、どこか疲れを振り払うかのように、にっこりとほほ笑んだ。


「ほんと、ありがとね。あ、そうだ、これ。リンゴ。たくさんとれたのよ、よかったらお家で召し上がって」


「いいんですか!ありがとうございます!」


赤くてみずみずしいリンゴ。マチルの家の絶品リンゴ。1箱もらってしまった。


これは、お礼せねば!!

英雄たるもの、小さい善の積み重ねが大事!

それに、みんなもおばさんのためならやる気をだすかもしれない!


「あの、おばさん!何か最近、困っていることとか、ありませんか!」


私はおばさんをじっと見つめる。


「困っていること……?そうね……。あ。困っているというより、不思議なことって感じだけど……。レリィちゃん、ちょっと時間、あるかしら?」


***


おばさんに付いて果樹園を抜けていく。

奥にある、開けた広場。

懐かしい。小さいころよくここで遊んだな。


「ほら、見てちょうだい。あそこ……」


おばさんが指さす先を見ると――草が、不自然に押しつぶされた、空間。


「別に困っているわけじゃないの、リンゴの木も無事だし。でも、なんだか不気味で……」


たしかに。不気味だ。明らかに、不自然。

なんだろう。


――でも。


「おばさん。……任せてください!この疑問!私たち打倒魔王パーティが解明します!!!大船に乗ったつもりで!!どんとしててください!!」


私たちがいるからには安心だ!きっとこれは、私たち新生打倒魔王パーティの初仕事になる。村の小さな平和を保つ仕事――英雄の仕事としてはちょっと小さいけど、でも、初仕事ってきっとこんなもんだ。


「いくよ、みんな!おばさんの心の安寧は、私たちが取り戻す!!!」


青空のもと、わたしはそう宣言した。

次回予告→ はじめての依頼!打倒魔王パーティ、ついに出動…ですよね?


第2話まで読んでくださりありがとうございます…!!!!!

第3話はたぶん18日の昼頃に投稿します!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ