第18話:オロシ村にて魔物の影!打倒魔王パーティ、出番です!
オロシ村に見つけた唯一の煙。
中から出てきた、小さなおばあちゃん。
干し草のように白くなった髪、日に焼けてわずかに褐色になった肌。
「あの、私たち、旅人で、でも誰もいなくてどうしよう!って思ってて……!」
緊張気味にまくしたてた私に、おばあちゃんはふふ、と小さく笑い、ゆっくりと声を出した。
「そんなに慌てなさんな。旅人さんかい。ようこそ、オロシ村へ」
しわがれた、でも優しい声。
「ありがとうございます!あの、どなたかお話を伺えたらと思ってたんですが……村には他の方は……?」
私の言葉に、おばあさんはふっと目を伏せた。
「……いま、この村に残ってるのは、わし一人さ」
一瞬、風が止まったような気がした。
「ひとり……ですか……?」
ひとり。どうして?
後ろで、兄さんが小声で「マジかよ……」とつぶやく。
「……まあ、入っていきなされ。外は日差しが強いから」
おばあさんは扉をゆっくりと開け、私たちを家の中へ招き入れた。
***
「ご挨拶が遅れたね。わしはフイ。生まれたころから、ずっとここに住んでおる」
「フイさん……ですね。ありがとうございます、すごくすてきなお宅!」
私は周りを見渡す。
煤けた梁と古びた家具が並んでいるが、埃はなく、囲炉裏には火がくべられ、湯がくつくつと音を立てている。
窓際には干した薬草と洗った布が並び、しっかりと生活の匂いがあった。
丁寧に暮らしてきたことが、見て取れる。
そして、私の後ろでは――信じられないくらいだらけて座るユートさんと、既に横になっている兄さん。そして、壁の穴をのぞき込むマチル。
「ふふふ、若いねえ。気に入ってもらえたようでよかったよ、あんさんもくつろいでおいき」
それを見てほほ笑むフイさん。
さ、さすがです……!
「そ……それで、フイさん。お話をお伺いしたいのですが……ひとり、というのはいったい……?」
フイさんは囲炉裏のお湯を湯呑に注ぎながら答える。
「みんな、城塞都市ソルト――隣の大都市へ、行ったのさ。半年くらい前のことだったかねえ……」
湯呑をもらう。温かい。
「みんな?――いったい、なぜ?」
「……」
フイさんが、一瞬目を伏せた。
「キャヴィ」
「……?」
口にされたのは、危機なじみのない単語。
でも、確かな直観がある。
この村の人々が、この村にいられなくなった理由。
もしかして――いや、きっとそれは――。
「――魔物、ですか」
囲炉裏の火がぱちんと爆ぜた。
フイさんは、ゆっくりと前に揺れる。
「あるときから――キャヴィは急に、暴れ者になってな。森の動物を襲い――時には人の家の前にまで来ることもあった。そりゃあ、村の者たちも怖がるわけさ」
――最近になって、突然狂暴になった、”魔物”。
間違いない。魔王が力を増している影響だ。あのポンポン森の、ルクシマルと同じ。
私は、ぐっとフイさんの目を見る。
フイさんは続ける。
その瞳は、どこか悲しげだった。
「だから、みんなソルトに避難したのさ」
「そうなんですね……」
私はうつむく。
魔物を凶悪化させ、人々の住む場所を奪う魔王。
やはり、倒さねばならない。
ここで、私はあることに気づく。
「あの、なぜフイさんは――避難、しないのですか?」
フイさんは、にこやかな顔のままだった。
「ここにいたいから、さ」
それ以上は、何も言わなかった。
***
その晩、私たちはフイさんに部屋を貸してもらい、一泊させてもらうことになった。
部屋は木の香りがほのかに残る和室で、畳は少し歪んでいたけれど、清潔だった。
火鉢の炭がまだ赤々と灯っていて、ほんのりと暖かかった。
「皆さん、泊まる場所が見つかってよかったですね!さあ、旅の疲れを癒しましょう!」
私は床に敷いた毛布にくるまる。あったかい!
「まあ……ギリ許すラインの宿かな……」
「最高ですよ!」
「……」
ユートさんは布団に半身を預けたまま、天井を見つめていた。兄さんとマチルも、布団(それか毛布)の中で横になっている。
私は声を潜めて、少し声を潜めて皆に語りかける。
そう、考えていたことがあるのです!
「皆さん……あの!魔物のキャヴィ、私たちで何とかしませんか!」
ユートさんが目だけをこちらに向ける。
「このままじゃ、フイさんまで危険に晒されます!それに、魔物に怯えて村を追われた人たちがいる。私は、それを見過ごせません!」
「……うわ、出たよ、正義感爆発モード……」
「あのババアをソルトに連れて行けばいいだけじゃね」
「それもまた、自然の摂理だと思う……」
いいえ、違います。
「私たちが動かなきゃ、誰が倒すんですか!?魔王を倒すパーティが、たった一体の魔物に背を向けるんですか!!」
言葉が、夜の静けさの中に響く。
しばらくして、兄さんが声を発する。
「……わかったよ。だってお前、一人でもやるだろ……」
「最悪……」
ユートさんはごろんと背中を向けた。
マチルは無言で毛布をかぶりなおした。
よし、いきますよ!
明日から、キャヴィの調査です!
絶対に、フイさんを守ります!!
次回→第19話:再会は囲炉裏のそばで♡ 魔物調査の助っ人ですか!?
6月25日(水)夕方更新!




