第11話:呼び起こされた闇!激闘、魔獣ルクシマル!
ポンポン森の魔物大量発生の原因、ルクシマル。
火と音が大好きなルクシマルを呼び出す、爆発。
大爆発を起こすような大量の火薬を用意することは、私たちにはできません。
ですが私たちには――あの日ドラゴンを一撃で吹き飛ばした――彼の”スキル”があります。
こぶしを握り締め、森の奥をキッと見つめる。
葉が揺れている。いや、揺れていない。
やはり、風で揺れない木がある。
「ユートさん!!!お願いします!」
勢いよく振り返る。
後ろには、ユートさんも兄さんもマチルもいます。
打倒魔王パーティ全員集合です!!!
――でも。
「うるさいって……やりたくねえって言ってるだろ……疲れるから……」
ユートさんはけだるげな表情。
……もう!!!ここは私が発破をかけるしかありません!
「ここまで来れたんだから!!!はいっ、あとひと踏ん張り!!!森の住人の方々も待っていますよ!!!さあ!!!」
「うるせえから来たけどさ……俺の何なんだよお前……マジで……」
「ユートさんならできます!!!3・2・1・キューっ!ハイっ!!!」
「ダルすぎ……」
目を伏せ、舌打ちをするユートさん。
「……やるなら……はやくして……」
マチルがユートさんを睨む。
そして、兄さんは。
「ユート……俺が言えたことじゃないけどさ……頼む」
うんうん、引き続き真面目モードです。
「……めんどくせ……」
ユートさんは肩を落としながら、腰の武器に手をかけた。
生命エネルギーの流れが高ぶっているのを感じる。
――スキルの発動。
「終わったら……マジでもう俺に変な期待かけるなよ」
ユートさんが足元の土を軽く蹴る。
息を吸い、森を見据える。
剣を、抜いた。
「――爆炎死獄」
空気が捻じれた。
次の瞬間。
ドゴォォォォオオンッ!!!!
地面が揺れ、耳を裂くほどの爆発が視界に広がり、網膜を照らす。
光が弾け、地面の草が吹き飛び、捲れ上がる土、巻き上がる煙。
大地ごと抉り取られたような衝撃が、森を支配した。
「……!!!」
兄さんとマチルの驚く顔が見えた。
そうか、そういえばこれを見るのは初めてでしたね。
そうです、ユートさんの能力は――とてつもない。
そして。
脈打つ、地鳴り。
地面が、黒く染まっていく。
うねる根が地面の下から現れ――いや、あるいは地面自体がうねる根となって。
根は、巨大な肉塊へと変わっていく。
息を飲む。
言葉を発することができない、神秘的なまでに圧倒的なおぞましい景色。
蠢く根の中心、黒い何かに覆われた巨大な赤い核。
それを包み込む、触手のような根。
それはいつの間にか、巨大な猿のような形になって。
そして、そこから滴る液体が地面に落ちるたび、あの皮膚の剝がれた猿のような魔物が次々と”生まれる”。
「あれが、ルクシマル――」
思わず、杖を握りしめる。
森を蝕む魔物の元凶。
――来る。
全員の目線がユートに集まる。
「……なんだよその目。期待すんなって言っただろ……」
ユートさんは剣を地面に突き立て、腰に手をついていた。
その顔は、いつもよりも白い気がした。
「ユートさん……!」
「疲れるんだよ、これ……。ガチで。無理だから……」
ユートさんの肩が落ちる。目をそらされる。
仕方ない。
私はキッと前を向く。
「ありがとうございます、ユートさん。行きましょう、兄さん、マチル!」
「え……?本気……?本気であんなのわたしたちが相手するの……?無理よ、できるわけない……!!だ、だいたいユートさん、いつもダルがっているから今のも本気なのか分からないし……!」
「こんなところでそんなこと言うユートさんじゃありません!行きますよ、マチル!」
「お、終わりよ……!」
「くそっ、俺が戦う!」
兄さんは槍を握り、ルクシマルへと一直線で駆けだす。
「サンライト・ヴェール!アイアン・フォート!!」
白魔法で兄さんを、そしてユートさんとマチルさんも覆う。
魔物も、そしてルクシマル自身も襲い来る。兄さんの方へ、私たちの方へ。
しかし、さすが兄さんはうまい。
私たちの方に来そうなものだけを狙って槍を振るう。
「本当に嫌だ……嫌だ……!」
後ろから半泣きのマチルの声が聞こえる。
「湖の底に揺蕩う声なき精霊……逃れし咎人を捕らえ、輪の檻に還り咲け……“縛輪”」
呪詛の詠唱。
魔物たちの動きが遅くなっていることが、はっきりと分かる。
10や20どころじゃない。あんなに大量の魔物が、いっぺんに。
……ありがとう、マチル。
***
兄さんが槍を振りかざす。
次から次へと現れる異形どもを、薙ぎ払う。
こちらを見た瞬間、その頭蓋を貫く。
呪詛で動きが鈍くなったところに、一撃を叩き込む。
血飛沫。弾ける肉。脳みそ。
魔物は無限に沸いてくる。しかし、兄さんは確実にルクシマルへと近づいていく。
槍を握りなおす。
泥の湿り気、耳障りな断末魔。酸っぱい血の匂いがここまで届いてくる。
魔物の爪が兄さんの腕の肉を削ぐ。
すかさず回復魔法をかける。
兄さんは、傷などなかったかのように槍を振るう。
痛みは、消せていないというのに。
飛び散る肉片、血と混ざり跳ねる泥。青空に、赤黒い飛沫が舞う。
兄さんはルクシマルへと駆けてゆく。
呼吸なんてとっくに狂ってる。でも、止まらない。
ルクシマルと兄さんの、目が合った。
「――っ!!!兄さん!跳んで!!――駆け抜ける青き風の精霊よ、今ここに力を宿し、彼の背に翼を与えたまえ――”エアロ・ブースト”」
槍を振るう兄さんの背中に、光の翼が与えられる。
今の私が使える最大の援護魔法。
頭が冷える。鼻の奥がつんとする。杖を握る指先の感覚が無い。息を吸っても、吸っている気がしない。
でも。兄さんは、跳んだ。魔物の群れを抜けて、ただルクシマルを見据える。
すかさず触手のような根が兄さんの脚に絡みつく。
槍を逆手に、振り下ろす。
肉塊を蹴り、重力が消える。空へ舞う。
目に映るはルクシマルのみ。
そして。
根の隙間に一瞬見えた、太陽を反射してぬゆりと光る赤い核へ。
槍を振りかぶる。肩に力が入る。
そして――突き出した。
私は息をのんだ。
――グギャァァァアアアアアアアアアッ!!!
ルクシマルの絶叫。いや、声なのかはわからない、異様な音。
核が粉微塵に割れた。内側から、赤黒い液体が弾け飛ぶ。
肉塊が震え、裂け、爆ぜる。
溢れ出していた魔物たちが、崩れ落ちるようにその場に倒れ、土へと還る。
血の匂いが風に混じる。
しばらくして、ようやく。
静寂が、訪れた。
***
「ん?何だこの音?」
戦いでできた傷を癒していた時、兄さんが何かに気づいた。
音。
確かに、森の方から変わった音が聞こえる。
ポンっ!ポンっ!という、ポップコーンが弾けるときみたいな変な音。
「何でしょう……?」
「ポンポン森の太鼓さ」
森の方から、声がした。酒場にいた老人だ。
老人は、懐かしそうに空を見上げる。
「ポップンケヤキが元気を取り戻した証拠さ、このポンポン森の名前の由来でもある。魔物が現れるようになって――いつからか、長いことこの音を聞いてなかったが」
「戻ってきたんだね」
そう言ったのは、あの回復術師のおばあさん。
その後ろには、たくさんの集落の人たちがいた。
「皆さん、いたんですか……!?」
「ああ……すまない、皆様方。私たちが放置してきた集落の問題に――こんなに危険を冒してまで、戦わせてしまって。そして、何もせず……傍観していて」
おばあさんが、申し訳なさそうな顔でこちらを見る。
「……いいんです。私たちは打倒魔王パーティですから。世界を救うんです。だから、解決した。それだけです」
私は、集落の人たちの方を見てゆっくりとほほ笑む。
ユートさん、兄さん、マチル。
私が集めた最強の仲間。
皆さんがいれば、どんなことだってできます。
「そうか……。ならば『すまない』じゃなくて、『ありがとう』と言うべきだったかな。――ありがとう、打倒魔王パーティの皆様方。この恩義は決して、忘れない」
おばあさんが、そして集落の人たちが、頭を深々と下げた。
「え、え、いいですよ、そんな――!!」
「いいから受け取っとけよ、レリィ」
兄さんが私の背中を叩いた。
「……!そうですね」
私は、集落の人たちの方をしっかり見る。
「ありがとうございます、皆さん!!」
その時、視界の端に見えたユートさんは。
すべてを――諦めたような、しかし、どこか悲しそうな顔をしている――ような、気がした。
***
「は~い!!いい雰囲気のところごめんなさ~い!!!お支払いのお時間です!!」
私たちが少し話をしていると、背中の方から聞き覚えのある声。
振り返ると。
「ハニーさん!!」
「レリィ~♡!!やっぱりレリィならできるって思ってたよ~!!!はいはい集落の方々、約束のお金は準備できているかな?この救世主たちにお金を払わないと!」
ハニーさんはそう言って、集落の人たちからお金をもらった。
そうです。ホテル代、まだ払ってないんでした。
今回魔物を倒したのは決してお金のためではありませんが――もらわないと、困ってしまうのも事実です。
「ふふ、はい、レリィ♡!これ♡!!」
ハニーさんが私たちに報酬袋――の中からいくらか抜いたもの――を渡す。
「紹介料、50%――といいたいところだけど、レリィたち今回ほんとがんばったから、おまけにおまけして30%!もらってくねん♡!」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、まったね~♡!!!アデュー、レリィ♡♡!!!」
ハニーさんからずっしりした報酬袋を受け取る。
これで、ホテル代を払って――次の町に出発できます。
魔王城に、一歩近づけます!!!
***
城塞都市ポンズ。
ホテルのお金も払ったので、この都市とはもうお別れです。
「さて!」
私は皆を見渡した。
「やっぱり魔王の脅威は本物です!そして私たちにはそれを止める力がある!!!」
ポンズの大きな門を抜け、次の町の方角へて杖をびしっと向ける。
「……もう何もしたくねえ……」
後ろから、ユートさんの暗い声。
でも付いてきてくれるんです!さすがユートさん!!
「終わりよ……この世ごと……」
マチルは相変わらず何かが終わると言っています。
何も終わりません!!!私たちが始めるんです!!!
「……金かあ……いや何でもない。金……増やせるんじゃ……いや、違う……」
兄さんが何か呟いている気がします。
悩みでもあるんでしょうか?悩むってことは成長している証ですね!!最高!!!
「さあ、いざ行きましょう!魔王城はまだまだ遠い!!!」
次回→第12話:爆釣注意!?晴れた日の釣りはやっぱり最高です!……よね?
6月8日(日)昼過ぎ更新!




