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第1話:まわせ勇者ガチャ!出でよ!パーティを導く勇者様!

近頃――この国は、徐々に破滅に向かいつつある。


「野菜の値段が高くなってきた」

「魔物に洗濯物を汚された」

「大陸ザリガニによる水質汚染」


……みんなは危機感を持っていないけど。


私は知っている。

これは”終わりの始まり”に違いない!


つまり――魔王の力が高まっている。


きっと、いや絶対、世界は今、気づかないうちにジワジワと侵食され始めている。


だから、私が――レリィ・アーネストが――この世界を救わなくちゃいけない!!!


その一心で、私は仲間たちを集めた。


世界を救う、希望の仲間たち(……たぶん。いや、絶対そのはず!!)。


そして――ついに今日、このパーティは完成する。


「よしっ!行くぞっ!”あの場所”に!」


朝8時。

青空がきらきらとシンクを照らす。

窓から注ぐ春風が心地いい。


畑の草むしりと家中の掃除(…兄さんの部屋除く)を終わらせた私は、気合を入れてエプロンを閉めなおす。


その時。

――ガチャリ。

ドアが開く音。


その音と一緒に、ふらふら家に入ってきたのは――。


「ああ、兄さんですか……」


ドルト・アーネスト。私の兄。


服はぐちゃぐちゃ、髪もボサボサ、手には……何も持っていない。


「ああ、レリィ……帰ったぞ。くっそ、今日は7のつく日なのに……」


あ、朝帰り……。

……。

紹介しますね。

兄さんは、私の集めたパーティの立派なメンバーです。

ただ、趣味がちょっと……救世主に似つかわしくないだけ。


ええい、気を取り直すのですレリィ!

今日は、念願の「あの場所」に行く日なんだから!


「兄さん!ちょうどよかった!行きましょう!ついに、私たちのパーティが完成するんですよ!これで打倒魔王に一歩近づきます!!」


「……寝る」


そういうと、兄さんはふらふらと自分の部屋に戻っていきました。

……。


いいんです。きっと、これも今日で最後ですから。


気を取り直して、私はもう一人の仲間――マチルの家へ向かいました。


マチル・ネガティー。私のいとこ。呪い師。すごい能力を秘めている……たぶん。


マチルのお部屋を覗く。

相変わらず薄暗い。

私はカーテンを開ける。

部屋中の埃がいっせいにお日さま色になる。


「さあマチル!おはようございます!今日も素敵な一日ですよ!なんてったって今日は念願の『あの場所』に行く日ですから!」


「……無理です。どうせ無駄ですよ……。何をしたって終わりです。ああ、貝になりたい……」


「出てってください……。今日は床下のネズミの死体に思いを馳せます……」


……。

そっとカーテンを閉めました。


はい、これが私の集めた”希望の仲間”たち。


そう、お分かりだと思いますが……彼らちょっとだけ、「あれ」でしょう?


そう……。


圧倒的に「やる気」が足りない!!!


「やる気」さえあれば、彼らは救世主になれるんです!!!


そのためには何が必要か?

私は一生懸命考え、一つの答えを導き出しました。


「カリスマ」。


彼らにやる気を出させるためには、憧れの的が――みんなが「こいつについて行きたい!」と思うような……。


「カリスマ勇者」が必要です!!!


幸いにもこの国には、素敵なシステムがあります。


”勇者ガチャ”。


異世界から勇者を召喚する装置。


1回100万シル。(※1シル1円くらい)


苦労しました。本当に苦労しました。

野菜を売って、靴を磨いて、村中の雑用という雑用を手伝って……ついに100万シルを集めました。


私は今日こそ、このガチャを回して「勇者」を引き当てて……みんなのやる気を取り戻し!

世界を暗闇に導く魔王を倒すパーティを完成させるのです!


いざ行かん!「あの場所」――「ガチャ神殿」へ!!!


***


そしてついに辿り着いた「ガチャ神殿」。


高鳴る鼓動、汗ばむ手のひら。

目の前に輝く、たくさんの魔法陣を携えた――巨大な「ガチャ」。

魔王を倒す力のある「勇者」を排出するという、この国の至宝。


「……」


後ろを振り返る。

兄さんはいない。マチルも来てない。

いいんです。

今日でこれも終わりです。

二人とも、生まれ変わってくれますよ。


ドザザザザザッ!


祈るように、ガチャに100万シルを注ぎ込む。


カシャン――。


魔法陣が、淡くぼんやりと光る。


(お願いします……っ!!)


光。青白くて、ぼんやりしてる。

音。鈴が謎のリズムを刻んでる。


――通常演出だ。


……でも!でもでも!だからって「当たり」が引けないわけじゃない!!

大事なのは気持ち!

私の祈る気持ちさえあれば――きっと最高のカリスマ勇者が召喚される!


「いっけえええええええええええええッ!!!」


光が、一面を覆う。


その隙間から現れたのは――。


だるそうに寝ころんだ、だるだるなシャツと半ズボンの少年。

手のひらを見つめている。


「俺のスマホは……?」


す、すまほ……なんでしょうか、それ……?


「……まぁ、いいか……」


しかし少年は、「すまほ」とやらのことはさほど気にしていないふうに、腕を枕にして仰向けになった。


「てか……ここ、どこ……?」


見るからにやる気が無い――いや!

まだ決まったわけじゃない!!


私はすぐさま背筋を伸ばし、胸に手を当て、声を張る。


「よ、ようこそ異世界へ!私はレリィ・アーネスト!魔王を打破するパーティの白魔導士であり――あなたは、我々を導き、この世界を救う勇者です!」


少年は、しばらく私を眺める……目が死んでいる気がするのは、きっと気のせい。


「は……?だる……」


と、寝返りを打った。


だ、大丈夫。彼は、混乱しているだけ。

「やる気」が無いわけじゃない!!!


私は必死に言葉を紡ぐ。


「今、この世界は魔王の脅威に支配されています!昨日だって、ペンシルさんの畑に魔物が現れたんですよ!シャープくん(※小型犬)があれを捕まえなかったら、今年のオクラが高騰していたかもしれないんです……!」


「……だから……?」


「つ、つまり!私たちは魔王を討伐する必要があり!あなたは『勇者』として!仲間たちのやる気を奮い立たせる、そんな存在なんです!!」


「……めんど。てか、興味ない……」


少年は、あくびをかみ殺す。


「呼んだってことは……飯と寝る場所……用意してくれるんだよな?」


わ、私の100万シル……。

お金投入口の横に、小さく書かれたガチャの排出率表記に目をやる。


・スーパーレア:0.00001%

・レア:0.001%

・ノーマル:88.99899%

・爆死:1%


……私の脳内に。


”爆死”


という二文字が。

でかでかと表示された。

お読みいただきありがとうございました!

第2話も読んでいただけると喜びます!

感想・レビュー・いいね・ブクマ等いただけるとがちで喜びます!!!


次回予告→新生!打倒魔王パーティ!私たちならきっとでき……ますよね?

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生真面目な白魔導士レリィとやる気ゼロの残念な仲間たちと、そしてまさかの「爆死」ガチャ結果、と……。何かカオスになりそうですな
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