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『移動する無人車両』

車内は、行き先を失った視線で満ちている。


吊革につかまり、座席に腰掛け、壁にもたれ、どこにいても目線の行き先は一定している。誰もが手元の小さな矩形(くけい)(=スマホ)の中に視界を預け、自らの眼球ごと収納しているようだ。


ガラス越しに映る車内は、まるで目を伏せたマネキンばかりを積み込んだ輸送用コンテナにも似ている。彼らの首筋だけが、不自然に生きている。


目的地に向かって進んでいるはずの車両の中で、乗客たちは各々、別々の場所を旅している。右隣の男は、南極の氷原を滑っている最中かもしれないし、左隣の女は昨日の夜、別れた恋人の街角に立っているかもしれない。座標だけが肉体を拘束し、意識はどこへでも行ける。


文明の発明が進むほど、場所と存在の関係は、どんどん不安定になっていく。むしろ、この箱の中に「今ここにいる」人間は誰一人としていないのかもしれない。


無人の電車。積まれた生身の荷物たち。


発車ベルが鳴り終わったとき、ひときわ鋭い静寂が車内を満たした。スマホの画面に吸い込まれた乗客たちは、もう降りることも忘れてしまったようだ。


進む車両。漂流する群像。行き先は、いつも目の前の画面。



実はこのエッセイは「同一オーダー」で第一弾連載(n2454kj)の『消えた車窓』の姉妹エッセイであったりもします。気になる方はそちらもどうぞ。

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