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『死神についての覚書 (あるいは、在庫整理のような)』
死神とは、
たとえば、いつも正面玄関を使わない者だ。
彼は裏口から入ってきて、
靴を脱がずに冷蔵庫を開ける。
こちらが驚く間もなく、
彼は言う。
「どうせあなたも、そろそろ賞味期限を気にしていたはずだ」
私は反論しようとして、
言葉のパッケージをまさぐる。
だが、どれも既に封が切られていて、
中身は空気と沈黙だけだった。
死神とは、
本当は誰のことだったか。
あれは他人ではなく、
使われずに残っていた自分自身の可能性――
タンスの奥で黄ばんだ夢のようなものだったのかもしれない。
彼はやがて何も持ち去らないまま、
ただ、壁のカレンダーだけを一枚破って出て行く。
私は、その音が妙にうるさく聞こえる部屋で、
残された日付の意味を再計算しはじめる。




