『音の消える日』
昨日まで好きだった音楽が、今日になると聴けなくなっていた。理由は単純で、契約が切れたらしい。いや、厳密には「所有していない」からだ。
私はあの音楽を、最初から一度たりとも手に入れていなかった。耳に入っていたのは、単なる権利の仮住まいだ。
かつてレコード屋という場所があった。盤を買って帰れば、物理的な所有感はあった。針を落とせば音が出た。棚に並べれば、たとえ聴かずとも、部屋の空気が少しだけ変わった。
今では部屋は変わらない。変わるのは契約ステータスだけだ。権利が途切れた瞬間、音楽は、煙のように消えていく。
映画も同じだ。昔はフィルムを巻き取れば、物語が手の中に納まった。いまや「観る権利」を毎月払い続けなければ、物語の登場人物ですら自分の記憶から出て行ってしまいそうだ。
所有をやめたのは、果たして私の方だったのか、それともコンテンツの方だったのか。
契約の更新が遅れるたびに、私の生活は音も映像も削られていく。気づけば、自分自身の記憶まで、どこか別のサーバーで保管されているような気がする。




