『こどもたちの進化』
公園を通りかかったら、こどもたちがスマホを囲んで遊んでいた。もはや鬼ごっこも缶蹴りも過去の遺物らしい。地面の上で身体を動かすより、電波の上を指先で走り回るほうが効率的なのだろう。
彼らの会話を聞いていると、やたらと「アカウント」と「ログイン」という言葉が飛び交っていた。どうやら、彼らの世界では「自分」という存在も、アカウント単位で管理されているらしい。言葉通りなら、彼らは放課後になるたび、教室に体を置いてきたまま、電波の中で別の自分にログインしていることになる。
もはや「どこで遊ぶか」ではなく、「どのアカウントで遊ぶか」が重要な時代。もしかすると、身体というのはただの保管用ケースで、本体は別に存在しているのかもしれない。人類はついに、生まれた瞬間からアカウントとして育てられる進化段階に到達したのだ。
そう考えれば、ランドセルも教科書も、ずいぶん無駄な荷物だ。アカウントがすべてを記憶し、通知し、成績まで管理してくれるなら、肉体は移動式バッテリー程度の役割でしかない。体力テストで測られているのは、もはや「身体の性能」ではなく「バッテリーの寿命」かもしれない。
こどもたちはいつか、自分の肉体を持つ理由を忘れてしまうのだろう。それでも彼らは、きっと退屈せずに生きていける。たとえ足が動かなくなっても、指先さえ動けば、新しいアカウントを作って再スタートできるのだから。
人類は、身体を失う日を待ちわびながら、今日もスマホを握りしめている。こどもたちは、大人よりもずっと早く、進化に備えているのだ。




