『空の初心者』
免許を取ったばかりのドローン操縦は、少し照れくさい。空を飛ぶことに慣れていない人間が、いきなり風景を俯瞰できる立場になるのだから、なおさらだ。
高度30メートル。
地上から見れば、単なる点でしかないけれど、モニターの中の景色は妙に親密だ。建物も道も人も、模型のように整って見える。この世界、思っていたよりもずいぶん几帳面だ。
街を歩くと、つまずいたり、信号待ちをしたり、余計なことばかり起こるのに、ドローンで見下ろしていると、世界は静かでお行儀がいい。トラブルが起きる気配すらない。
今日は電柱の影が地面にぴったり張り付いていた。まるで地面が、電柱を離さないように押さえ込んでいるみたいだった。カメラを傾けて撮ると、影がまるで別の建築物に見える。現実というのは案外、撮り方ひとつで雰囲気が変わるものだ。
着陸を終えると、足元のアスファルトが妙に固く感じる。たった数分、空の高さを借りただけで、人間の視線はちょっとだけ贅沢になってしまった。
このまま、ドローンと一緒に散歩する癖がついたら、地上を歩くことが退屈になりそうだ。でもまあ、退屈しているくらいが、人間にはちょうどいいのかもしれない。




