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【書籍化】その王妃は異邦人  作者: sasasa
第二部 〜才ノ章〜
73/88

才分





「何なんだ、この国は……! 本当に天国なんじゃないか?」


 ドラドが調査で採掘してきた魔晶石を見て、ジーニーは目を輝かせていた。


「手付かずの龍穴があるだなんて。しかも、霊玉の鉱脈があっただって? やりたい放題じゃないか!」


 綺羅綺羅と怪しい光を放つ魔晶石、東洋で言うところの霊玉とは、魔力が結晶化した非常に希少な鉱石だった。釧では既に掘り尽くされ世に出回るのも稀なこの石が、王室の所属となったフロランタナ領で大量に発見されたのだ。


「私も驚いた。まさか我が国から魔晶石が発掘されるとは。よく見つけたな、シュリー」


 レイモンドの褒め言葉を受けて、シュリーは得意げに胸を張る。



「これしきのこと、大したことではございませんわ。私、風水にも多少の心得がございますの」



 地図を広げたシュリーは、改めてレイモンドに説明を始めた。


「この世には、大地に流れる龍脈の力を噴出する穴、〝龍穴〟があるのですわ。釧では古来より風水によって龍穴の位置を調べ、そこに眠る力の恩恵を受け続けてきました。龍穴は世界中に点在しているのです。例えば西洋で言いますと……」


 シュリーは世界地図を見下ろすと、ぽんぽんとアストラダムの周辺の国を指差した。


「ラキアート帝国のサタンフォード領や、リンムランド王国のクッセル湖畔、ロムワール王国のシャロン領辺りも龍穴がありますわね。あとここのアルパール山脈も。龍穴は場所によって効能に差がありますの」


「必ずしも魔晶石が出るとは限らないのか?」


「左様でございますわ。莫大な地脈や魔力を絶えず噴出する穴、邪気を纏い魔物を寄せ付ける穴、ドラゴンが巣食う穴、そうして今回のように、魔力の結晶石が眠る穴。いずれにしても強い力を持つ場所に変わりはございません」


 興味深そうにシュリーの説明を聞いていたレイモンドは、先程シュリーが指し示した場所にはそれぞれ思い当たる逸話があることに気付き、改めて感心したように声を上げた。


「釧の術は奥が深いな。このような場所を見つけられるとは」


「ですけれど、その分釧の龍穴は掘り尽くされておりますの。それに比べて西洋にはまだ手付かずの龍穴が多数残っています。今後調査の範囲を広げるのも良いかもしれませんわね」


 レイモンドが地図に目を向け考え込むと、シュリーは魔晶石に夢中のジーニーに鋭い視線を向けた。


「それで。ドラドは何故来てないのかしら。彼が私の命令に逆らうなんて、余程のことがあったとしか思えないのだけれど。ジーニー、貴方。彼に何をしたの?」


 シュリーに詰め寄られたジーニーは、気まずげに頭を掻いた。


「いやぁ……二人で研究室に籠ってたら、ちょっとばかり我慢が利かなくて。その、味見を少々……」


「…………」


 シュリーが獣を見るような目をジーニーに向けると、ジーニーはバツが悪そうに目を逸らした。


「そんな目で見ないでくれよ。僕だって反省してるんだ。でも、本当にほんの出来心で」


「なにが、できごころなの?」


 と、そこへ。場違いな声が響く。シュリーとジーニーの視線の先には、清潔な服に身を包んだ少女が立っていた。


「あー、おチビちゃん。今のは聞かなかったことにしてくれ」


 大きな瞳に見つめられて鳥肌を立てたジーニーがそう言えば、少女は不思議そうに首を傾げた。


「?」


「おい、王妃様! 何でこんな所に呼び出したんだ? 僕、子供って本当に好きじゃないんだ。生命力に満ち溢れていて無垢で純粋で、僕の好きなものと正反対なんだから」


 心底嫌そうに震えながら言い募るジーニーへ、シュリーも小声で反論した。


「ここに用があったからよ。私だって子供は苦手だわ。でも、ここの子供達はよく働く聞き分けの良い子ばかりよ」


 子供の苦手な二人がコソコソと言い合う横で、少女はレイモンドに向き直った。


「レイさま……じゃなかった、国王へいか、お久しぶりです」


「久しぶりだな。皆元気そうで何よりだ。いつの間にそんなに礼儀正しくなったのだ?」


「マダム・シルビアが色んなことを教えてくれるの! カイコの飼育も手伝ってくれるのよ。これも教えてもらったの」


 楽しげな少女がスカートの裾を摘んでお辞儀を披露すると、レイモンドは目を丸くした。


「素晴らしい。凄いじゃないか、立派だぞ。流石は淑女の鑑と謳われたほどの婦人だ。子供達の教育も行き届いている。彼女に任せて良かった」


 レイモンドの声に応えるように、子供達の間から一人の婦人が三人の前にやって来た。


「国王陛下、王妃様。このような所に足を運んで頂き何と申し上げたらよいか……」


「シルビア、忙しいところ悪いわね」


 シュリーが親しげに挨拶をすれば、婦人は慌てて首を横に振った。


「何を仰います、王妃様! 陛下と王妃様の為でしたら何でも致しますわ。それで、フロランタナ領について知りたいことがあるとか?」


 セレスタウンにある孤児院。上品な服にエプロンを着けた姿で現れたのは、かつて処刑されたフロランタナ公爵の夫人であった、シルビアだった。






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[一言] 合意がないならアウトですね、うん。アウトですアウト
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