才望
「この刑には楽しい工程が沢山あるんですが。まず、罪人の眼球をくり抜きます」
「なっ!?」
レイモンドの側近達は、何でもないことのように言うジーニーの言葉に飛び上がった。
「次に四肢を切り落として……」
「ひっ!?」
「それから耳と口を……アレをこうしてああして、」
「うっ……!」
「それを切って潰して漬けて……」
ジーニーが意気揚々と語り出したのは、到底人間のする所業とは思えないような、残酷過ぎる拷問の果ての処刑方だった。説明するジーニーの口からは、残酷な言葉が次から次へと飛び出してくる。
「……あ、因みにこれは全部最大限の苦痛を与えつつも死なない程度に様子を見ながら行います。必要なら治療もしますよ。ここで死なれちゃ台無しなんで。細心の注意を払ってまだ息がある状態を保ち、それを今度は豚便所に……」
「ま、待ってくれ! そこまでしてまだやり続けるのか!? もう止めてくれ!!」
終わらない刑の説明に顔を真っ青にして叫んだマドリーヌ伯爵の横で、ガレッティ侯爵は静かに口元を押さえて湧き上がってくる何かを必死に堪えていた。
更にその隣では、マクロン男爵が耳を塞いで蹲っている……というか、失神していた。それ程までにジーニーから聞かされた刑の内容は衝撃的だった。
これ以上は聞くことさえ無理だと、限界を訴えるアストラダム人達へ、ジーニーはつまらなさそうに口を尖らせた。
「ここからが本番なんですけどねぇ」
この公子も普通じゃない、と認識したレイモンドの側近達は、国王に頭を下げた。
「陛下! 王妃様のお怒りはご尤もですが、あの場に居合わせた貴族や国民には恐怖心が芽生えております。王妃様の素晴らしさを讃える気持ちに変わりはないものの、一方で恐ろしい面もあると……ここは、王妃様の評判の為にも、そのような残酷極まりない刑を行うのは控えた方がよろしいかと」
青白い顔のまま、マドリーヌ伯爵は国王レイモンドへ必死に奏上する。
「陛下、時に残酷過ぎる為政者は国民の信頼を失ってしまいます。このままでは王妃様が今まで築き上げてこられた立場をも失いかねません。陛下のお言葉でしたら王妃様も聞き届けて下さいましょう。どうかその人豚なる残虐な刑は考え直して頂くよう、王妃様を説得して下さい」
迫り上がってきたものを何とか飲み込んだのか、ガレッティ侯爵もまた冷や汗を垂らしながら国王へと訴えた。
しかし、国王レイモンドは忠臣達の言葉を受けて首を横に振った。
「……それは駄目だ。私から王妃を説得することはできない」
「陛下!?」
「な、何故です!?」
絶望に目を見開いた二人が叫ぶように問うと、レイモンドは片手で目を覆った。
「考えてもみてくれ。もしここで私があの令嬢の減刑を王妃に訴えれば、結果として令嬢を庇っているように見えてしまう。そうなると、王妃の心はどうなる」
「…………あ」
そこにいる全員の脳裏に、〝火に油〟という恐ろしい言葉が浮かんだ。
「王妃はあの令嬢の馬鹿げた妄言のせいでただでさえ傷付いているのだ。私はこれ以上、王妃を傷付けたくも悲しませたくもない」
あ、そっち。そっちですか。あの王妃ほど傷付くという言葉が似合わない王妃はいませんが……。本気で苦悩している国王を前に誰もがそう思ったが、勿論決して口にはしなかった。
「従ってこの件に関しては、私から王妃に何かを言うことはしない」
国王の強い意志に、マドリーヌ伯爵もガレッティ侯爵も黙り込んでしまった。
レイモンドの言う通り。ここで他でもない国王が令嬢の減刑を王妃に訴えれば、何もかもが逆効果になることは目に見えている。最悪の場合、再び怒り狂った王妃が今度こそこの国を滅ぼしかねない。
「だが……、あのような馬鹿げた令嬢のせいで王妃の評判が落ちるのも許せないな」
困り果てていた面々の前で、顎に手を当てて考え込んだレイモンドは、ふと顔を上げた。
「……ランシン」
呼ばれたランシンは、周囲の視線が不思議そうに自分に向けられる中でレイモンドの前に跪いた。
「はい、陛下」
「そなたに頼みたい。王妃と話をしてくれないか」
ランシンは、秀麗な顔に少しの戸惑いを乗せて国王を見上げた。
国王の側近達が驚く中で、レイモンドの金色の瞳は真っ直ぐに寡黙な従者へ向けられていた。
「この状況で王妃を説得できるのは、そなたしかいない」
「私が……ですか?」
「シュリーはそなたのことを信頼している。そなたの言葉であれば、耳を傾けるだろう」
国王であり、シュリーの夫であるレイモンドは、異邦人のランシンを心から信じ、愛する妻に関わる重要な役割を託そうとしていた。ランシンを見る瞳には全幅の信頼が透けて見えていた。
その眼差しを受けて一瞬だけ泣きそうな顔をしたランシンは、すぐにいつもの涼やかな無表情を取り戻して拱手する。
「承知致しました。私から娘娘にお話ししてみます」
「ああ、宜しく頼む」
目を細めたレイモンドは、信頼を込めてランシンの肩をそっと叩いたのだった。




