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【書籍化】その王妃は異邦人  作者: sasasa
第一部 〜異ノ章〜
26/88

異議





「ふん。やはり、野蛮人の王妃など大したことはなかったな」


 セリカ王妃のお茶会についての憶測が飛び交う中、フロランタナ公爵は一人ほくそ笑んでいた。


 お茶会が失敗に終わった、という一部の噂だけを聞き付けて信じ込んだ公爵は、その結果に大いに満足していたのだ。やはり、少しばかり目立つとは言え所詮はただの小娘。王妃を警戒する必要などなかったのだ、と安心し切った公爵。


「マドリーヌ伯爵、マクロン男爵。そなたらの奥方もお茶会に出たと聞いたが、さぞや王妃は酷い失態を犯したのであろうな」


 話を振られたマドリーヌ伯爵とマクロン男爵は、揃って首を傾げた。


「はて……どうでしょうな。何せ妻はお茶会の話をしたがらないもので」


「私の妻もそうです。聞いても何も答えませんもので」


「ハッ! やはりな。それ程に悲惨な場だったのであろう。我が妻が出席しなかったのは正解だったのだ!」


 結局フロランタナ公爵夫人の元に招待状は来なかった。そのことを無理矢理肯定するように声を張り上げた公爵は、取り巻き達に向けて言い放った。


「それよりも、今日の議会では例の貧民街の件を正式に発議する。貧民用の予算なんぞ、もともと端金に過ぎないが、少しでも金が我等の手に流れると思えば悪くない。何よりレイモンドは昔から孤児院を支援したり、貧民街での慈善活動をしたりする変わり者であった。アイツの顔を潰すのに今回の発議は良い見せしめになるだろう」


「ですが閣下、ガレッティ侯爵のことはどうするのです? この件については何やら国王陛下の意見に賛成されていましたが」


「フンッ。どうせ今回だけだ。あの頑固者がそう簡単に中立の立ち位置を崩すわけがない。それにどちらにしろ、中立派の票が全て流れようとも、過半数を確保する我が貴族派に太刀打ちできるはずもなかろう」


「確かに……」


「それもそうですな」


 目を合わせたマドリーヌ伯爵とマクロン男爵は、公爵の言葉を肯定しながら頷き合った。


「では行くぞ! あの生意気なレイモンドの鼻をへし折ってやるのだ!」


 自分の意見に納得した取り巻き達を引き連れて、フロランタナ公爵は議会の場へと向かったのだった。

























「前回のガレッティ侯爵のご意見を踏まえて、今回改めて議案書を用意致しました。これによれば、貧民街への流入は年々増加し、現在では過去最高の人数を記録しているとか。陛下が甘やかして施しなんぞ授けるから、仕事をしない貧民がこんなに増えているのです。今すぐ貧民街への施しを廃止し、我々の俸給を上げて頂きたい!」


 声高に議会の中央で宣言したフロランタナ公爵。その様子を国王レイモンド二世は静かに見つめていた。


「……公爵の意見はよく分かった。此度は正式な書類も提出されている。この議題について、意見のある者はいるか?」


 国王の投げ掛けに、答える者は誰一人いなかった。フロランタナ公爵は自慢の口髭を触りニヤリと笑う。


 そんな中、国王レイモンドが腰を上げる。


「……では私が意見しよう。私は公爵の意見に反対だ。確かに彼等は貧民という立場にいるが、我が国の国民であり貴重な人材であることに変わりはない。施しを廃止し彼等が飢え死にするようなことがあってはならない」


 力強く言い切った国王を、公爵は鼻で笑い飛ばした。


「陛下! それはあまりにも青臭い意見ですな。満足に仕事も出来ぬような奴等の、一体何処に価値があると言うのです。役立たずで汚らしく、価値もない。あんなものはゴミに等しい。ゴミは綺麗に掃除すべきです!」


 議会の中心で国王の意見を否定する。そんな自身の発言に酔う公爵。国王レイモンドは静かに立ち上がると、議会へ向けて問い掛けた。


「他に意見はないだろうか」


 議会は静まり返り、発言する者はいなかった。


「では採決に移る。フロランタナ公爵の発議に賛成し、貧民街への施しを廃止すべきと思う者は起立せよ」


 公爵は立ちながら、結果の分かり切った採決に目を閉じた。こんなものは見る必要すらないのだ。それ程までに、公爵の地位は盤石であり国王よりも格上なのである。


「次に、公爵の発議に反対の者は起立せよ」


 今度は座り込みながら。フロランタナ公爵は相変わらず目を開けなかった。目を開けて立っているのがレイモンド一人では、あまりに可哀想だ。そんな惨めな甥の姿は想像しただけで笑えてくる。


 笑みを堪え切れない公爵は、妄想の中のレイモンドを散々嘲笑いながら結果が出るのを待った。



「書記官の集計が終わったので結果を発表する」



 思ったよりも時間の掛かった集計に苛立ちつつ、公爵はやっと目を開けた。レイモンドの悔しそうな顔を想像していた公爵は、いつもと変わらぬ澄まし顔の甥に舌打ちした。分かり切った結果よりも甥の歪んだ顔の方が楽しみだと言うのに、何とつまらないことか。


 不満げな公爵は、次の瞬間耳を疑った。



「賛成35人、反対38人。これによりフロランタナ公爵の発議は棄却された。次の議題は……」






「………………何だ、と?」








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― 新着の感想 ―
[良い点] フロランタン…マカロン…マドレーヌ… お腹が空いてきますねぇ…
[一言] どんだけ切り崩されてるのか……w
[気になる点] 反対票38人の内、29人は…ですかな?
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