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【書籍化】その王妃は異邦人  作者: sasasa
第一部 〜異ノ章〜
19/88

異化とお茶会の最中




「王妃様のお召し物、本当に素敵ですわね!」


 お茶会が始まると、真っ先にシュリーことセリカ王妃に注目が集まった。特に王妃が身に着けて来た釧風のドレスは軽やかな素材に繊細なレースがあしらわれ、シルクの生地と金糸の刺繍が光を放つようで、目の肥えた貴婦人達を魅了していた。


「ありがとう。釧の衣装はドレスと違って脱ぎ着も簡単ですのよ。コルセットも不要でございますしね」


「コルセットが不要ですって!? では……ドレスを着る度に窒息するような思いをしなくて良いということですわね?」


「コルセットを締めていると、折角のお料理をいつも楽しめませんもの」


「で、ですが……人前でコルセットを着けないとは、少し下品じゃないかしら。それに、コルセットがないと体型が気になってしまいますわ。王妃様のように細っそりとした方であれば必要ないでしょうけれど……」


 先程の失敗を活かし、失礼がない程度で何とか王妃の邪魔をしたいフロランタナ公爵夫人がそう言うと、待ってましたとばかりにシュリーは口角を上げた。


「それでしたら問題ありませんわ。このドレスは上衣と(スカート)が別々になっておりまして、腰部分で裳を結ぶ型ですの。その為コルセットを締めるよりずっと楽でありながら、腰が細く見えるのですわ」


「まあ!」


 セリカ王妃の説明に、貴婦人達は目を輝かせた。その反応を楽しみながら、王妃は説明を続ける。


「更に釧の衣服には、様々な型がございます。こちらは今のアストラダムの流行に合わせて選んだ型ですが、胸元で締める型ですと体型を隠せるのと同時に脚が長く見える効果もありましてよ。他にも領巾を纏ったり、外掛を羽織れば美しく優雅さを出しつつ体型を隠すことができますわ」


「ほ、本当ですの? では本当にコルセットが必要なくなるのかしら」


 もはや誰もが期待と羨望の眼差しでセリカ王妃を見る中、セリカ王妃ことシュリーは優雅な仕草で頷き、折角だからと敵に目を向けた。


「左様ですわ。それに、これからはこのドレスの材料となるシルクがより身近になります。そうですわよね? フロランタナ公爵夫人」


「は、はい……?」


 急に話を振られて狼狽えたフロランタナ公爵夫人へと、セリカ王妃は優しく微笑む。


「フロランタナ公爵のお陰で私がこの国に嫁ぎましたもの。釧との交易がより拡大するはずですわ。シルク製品もより身近なものとなりましょうね。釧の衣服が取引される日も遠くはなくてよ。勿論公爵家もそれをお望みですわよね?」


 フロランタナ公爵夫人は、扇子で口元を隠しながら必死に頭を巡らせた。王妃の言う通り、夫である公爵が釧との交易を推し進めているのは事実。下手に否定して夫の政治に支障があってはいけない。この件で王妃の邪魔をするのは得策ではないかもしれない。


「え、ええ。王妃様の仰る通りですわ」


 公爵夫人が頷いたのを見て、セリカ王妃の着ている新しいドレスを見る貴婦人達の目が、より貪欲なものになる。


「という事です。これからは釧風の商品がより流行するでしょうね」


 軽やかに袖を翻してお茶を飲む王妃の言葉に、ガレッティ侯爵夫人が同調した。


「左様ですわ! お隣の王国では、将軍が釧の白磁の皿一枚と精鋭部隊一つを交換したと聞きます。それ程までに釧の製品は西洋諸国で重宝されておりますもの。釧の皇女であらせられる王妃様には、もっと釧の品についてお聞かせ頂きたいものです」


「他でもない侯爵夫人の為でしたら、何なりとお答えしましてよ。ああ、そうそう。先程見せて頂いた侯爵邸にある絵付け皿、あれはとても良い品でしたわ。釧でも指折りの名匠の作でしてよ。流石、ガレッティ侯爵夫人は見る目がございますのね」


 陶磁器の最先端である釧の皇女、セリカ王妃に褒められたガレッティ侯爵夫人は、目に見えてご機嫌になった。


「あれは一目見て気に入ったのです! 王妃様のお墨付きを得られて本当に嬉しいですわ!」


 その後の話題も殆どが釧やセリカ王妃に関わる話題となり、今回のお茶会の中心は、間違いなくセリカ王妃だった。


 何を聞かれても動じることなく返すセリカ王妃は、お茶会のマナーも完璧だった。非の打ち所がない王妃に、夫から王妃を邪魔するよう言われていたフロランタナ公爵夫人は焦りを見せていく。


 そうしてお茶会がとても盛り上がったところで、漸くフロランタナ公爵夫人は王妃への反撃の機会を得た。



「これは何ですの……?」


 参加者が持ち寄った土産を披露する中、セリカ王妃が出したのは、干からびた草を丸めた塊だったのだ。


 ここぞとばかりにフロランタナ公爵夫人は声を荒げた。


「貴婦人達が集まるガレッティ侯爵夫人の高貴なお茶会で、このようなものを出すなんて。王妃様はいったい何をお考えなの?」


 やられっぱなしでこの好機を逃すものかと息巻く公爵夫人。鼻で笑いそうになるのを必死に堪えたシュリーは、訝しむ貴婦人達へ向けて美しく微笑みながら説明した。



「こちらは花茶の一種、工芸茶というお茶ですわ」








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― 新着の感想 ―
[良い点] 焦る余り見え見えの罠に引っ掛かるの図ですね。 国丸々一つを自分の話題に出来るのです、強すぎますね。 [一言] 一話ごとに見所があり過ぎて、感想を書かずに居れません。
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