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精霊術の練習

 少しだけ時が流れ、4日目の午前。

 3人パーティは想像以上に動きやすかった。ウィンダは確かに火力を持っていて、彼女のサンダーボルトはとても強力だった。また、それぞれパーティ経験のほとんどないトーマスや新人のナナに対して、チームワークとはなんぞやという経験者からの知見を話してくれた。


「お前ら2人とも、別々に叩きすぎなんだよ。パーティの強みは数の力と連携だ。無理な状況ももちろんあるが、可能な限り誘い出して総員で各個撃破!D級以上を相手取るなら心掛けていけ!!」

「ナナァ!!無理に攻めなくていい!お前の今の役割はタンクだ!前で適当にヘイトを稼いでりゃ、それだけで仕事は出来てる!相手を良く観察!攻撃は絶対に避ける!そしたら後ろが削る!それでいい!!」

「トーマス!!ナナにヘイトが集中しすぎないように陽動すんのは構わねぇが、俺の近くにいる時にされると困る!!俺までターゲットにされるからな!全員の立ち位置をよく見て動いてくれ!!」


 E~C級のモンスターを狩続けているだけだが、それでも的確な指導役が居ればちゃんと経験値は増えるものだな……。ウィンダはただ戦力の増強になっただけでなく、パーティ全体のレベルを底上げしてくれる存在となっているように思えた。


「サンダーボルト!サンダーボルト!サンダーボルトッ!!」

「……なぁ、威力が下がってるように見えるんだが、気のせいか?」

「そうか?集中力が切れて来てんのかもしれねえな……!!」

 ウィンダは自分の頬を叩き、ふうと大きく息を吐いてから、再び魔法を連発する。既に70〜80発は撃っている。

 彼女の持つ魔法杖……雷杖『アルゲス』が帯電し、バチバチと音を立てながら光を放っている。だがやはり、威力はやや減弱しているように見えた。

 俺から2人に切り出す。

「かなり消耗してるはずだ。そいつを狩り終わったら、ちょっと休憩しよう」


 ーーーーーーーーーーー


 今日は半日で戻らず、午後からもフィールドに留まる予定だ。そのため、一旦、昼の弁当休憩をとることにした。

「トーマスさん。魔法は精霊を介して発動すると、武器屋で教えてくれましたよね」

「そうだな。それがどうした?」

「一つの魔法を酷使すると、精霊に嫌われたりとかって、あるんでしょうか……」

 ナナが精霊術について質問する。帝都では精霊について習わなかったそうなので、知りたいことがたくさんあるのだろう。


「精霊に嫌われる、か。そうだなぁ……精霊の気持ちは俺にはわからん。気持ちがわかるというやつに会ったこともない。だが、精霊術は術者が自分のマナを精霊に分け与えることで成立している、一種の取引だ。取引なら反故(ほご)にされることはないんじゃないか?」

「そういうものなんですか」

「多分。それが共生関係というやつだろう」

 俺はナナに対して自分の考えを伝える。ギブアンドテイクの関係。精霊にとって旨みがあるからこその協力関係なのだ。


 そこにウィンダが口を挟む。

「精霊にも意志はあるぜ」

「そうなのか?」「そうなんですか?」

 俺とナナのリアクションが重なる。ウィンダが説明する。


「精霊は自分が付いていきてぇやつに付いていく。だから魔法使い……精霊使いにはカリスマが必要なんだ」

「カリスマ……?どういうことだ?」

「まあ精霊が俺らの言語やら文化を理解しているかどうかは知らねえが……例えば俺が敵を倒して強さを見せつければ、その強さに惚れ込んだ一部の精霊が俺についてくる!その分俺は多くの精霊を使って強力な魔法を使える!!負ければ、俺に付いてた精霊の一部が俺を見放し、離れていく」

「なるほど」

「見せるのは強さだけじゃないぜ。負けても立ち上がれば、その姿をちゃんと見てる精霊もいるもんだ。誰かに情けを掛け命を救えば、優しさに惚れ込んだ精霊が、逆に冷酷に見放せばまたそれに共感する精霊が追従する」

「本当か、それ?」

「俺の魔法の先生が言ってたことを疑うんじゃねえよトーマス。ともあれ、芯が通った生き方をするやつに精霊は付いてくるってこった」

「訓練を怠るなって言いたいがために、精霊をダシにしただけなんじゃないのか?」

「ハッキリ言うなよお前!!そういうのは思っても胸に閉まっておけばいいじゃねえか!!」

 ウィンダはトーマスに詰め寄る。ナナは微笑みながらそのやりとりを聞いていたが、再び口を開く。


「私にも高い精霊適性があるらしいんですが、魔法はあまり使えなくて……教えてくれませんか?」

 こうしてナナへの魔法レクチャーが始まった。


 ーーーーーーーーーー


「本当はお前の最も適性が高い火属性で教えてやりたいんだが、どうも俺にもウィンダにも上手く扱えなくてな」

「と言うことで、この俺が得意な水属性で行く!!」

「はい、よろしくお願いします」


 まずはウィンダが人差し指を立てて、その指先に水球を作ってみせた。握り拳くらいのサイズだ。


「おお〜……」

「やってみろ」

「やってみろと言われましても…」

 ナナは困っている。

「お前の先生はどんな教え方したんだ」

「先生の悪口を言うな!ちょっと教え方を忘れたんだよ!というか、初めてだしな、教えるのは」

 ウィンダも豪語していた割には戸惑っているようだ。

「はあ……そういうのはまず、補助しながら精霊の気配を感じ取ってもらうところからだろう」

「……そうだな!!よしナナ!!俺が手を添えるから一緒にやるぞ!!まずは指に水をつける。ここについてる水滴を一緒に大きくしていこう!!さあいくぞ!!」

「よろしくおねがいします!」


 そんなこんなで、午後からは魔法の訓練になった。

 1時間ほどで、ナナは手のひらや指先から水を出すことに成功した。

「見てください!こんなに大きな水球が作れました!」

「精霊にマナを与える感覚は掴めたか。水球を浮かすこともできている……すごいな」

 想像力と集中力、潤沢なマナ容量があるんだろう。やっぱりナナの才能は底知れない。


「後は帝都で学んだ魔術と、多分おおよそ一緒なんじゃないか?」

「実際の現象を五感で感じながら再現、でしょうか?火炎系統魔術の練習では焚き火を使いました」

「そうだ。多分そのやり方でいいはずだ。じゃあ火の精霊も扱ってみてはどうだ?既に使ったことがあるなら、それを精霊に指示するように置き換えるイメージだけで出来るんじゃないか?」

「そううまくいきますかねぇ……あ」

 ナナの手のひらから小さな火が出てきた。成功だ。こんなにうまく行くとは思っていなかった。


「マジですげえじゃんな!!ナナ」

「出会って数日だが、俺なんかよりよっぽど才能があるように感じるよ」

 俺とウィンダの賞賛を受けて、ナナは一瞬戸惑ったようだが、すぐに笑顔を作った。

「ありがとうございます。でも、お二人の足元にはまだまだ及びません……いろいろ教えてください!」

「そうだな……。山越えにはもう少し力をつけたいところだ」


 ナナがハッとして申し出る。

「トーマスさんの爆発的な加速とか出来るようになりたいです」

「あの技は身体を浮遊させることで実現させているところがあるから、浮遊なしだと……どうなるんだ……」

「自分でも分からねえのかよ!……ナナ、トーマスはアレを風魔法でやっているが、お前の場合は水と火だ。風は無い」

 俺と一緒にウィンダも考えてくれている。今彼女が指摘した通り、俺とナナでは精霊適性が異なる。違う属性のマナを使っても、似たような現象を起こすことは可能ではあるが……


「火のマナで、爆発を再現すればいいんですよね?」

「言うじゃねえか、怖いモンなしか?自分に爆風やら高熱をぶつけるんだぜ?」

「熱いのは嫌いじゃないです。それにトーマスさんだって自分に強風をぶつけています。それで無事ってことは怪我をしない方法があるんですよね」

「まあ……理論上、ここを押すと効率的で安定する……っていう部位や角度、姿勢はある。安定は、そのまま安全になる。だが俺だってたくさん怪我したからな?」


 推進力を得ると言うことは、衝撃を受け止めるということに他ならない。当然、人体には骨格があり、急所もある。ポイントを外せば力は減衰して伝わらないし、自滅することもあるのだ。

「じゃあ練習すればいけるってことですね」

「未来の自分への自信すげーな!」

「そういう精緻な操作はおいおいな。ひとまずは、粗大で良いから精霊を使うことに慣れるんだ。特性を知ろう」

「魔法使いはカリスマが大事だぜぇ!今のお前の魅力は、マナたっぷり抱え込んでることだ。精霊にカモられても痛くねえ、気にせずぶっ放せ!」

「うわぁ、すごい楽しそうに言われますね……」

「ウィンダの言い方はあれだが、ケチケチするより、豪勢に浪費した方がいろんなことが学べるって言うのは賛成だ。……上から来るぞ、気をつけろ」


 気配は上空。黄色と黒の警戒色が嫌でも目に付く。D級鳥類モンスター、ビーホーク。

 3体が旋回している。俺たちの昼食の匂いにでも釣られたか?

「放っておくのは少し目障りだな……倒すか、追い払った方が良さそうだ」

「ナナぁ、1発撃ってみたらどうだ?当たるかもしんねぇ」

「流石に遠いですよぉ……」


 ナナがボヤきながらも上空に向けて右手を構えた。帝都式の火炎魔法を詠唱しながら発動させる。

「……燃え盛れ、内なる情熱。焦げ付け、執念の炎。その姿は一条の矢となり、敵を逃さず焼き尽くす」

 詠唱によりイメージはより強固なものになる。ナナの手に集中したマナが炎へと変換され、それは矢に近い形状になっていった。


「火の精霊……力を貸して。……ファイアアロー!!」


 手から魔法の矢が離れ、燃えながら空へ一直線に飛んでゆく。それはビーホークが移動した後の空を通り過ぎていった。

「……外してしまいました。けど、手応え。ありました!」

「飛距離は上等だな!まず火が消えないまま敵の高さまで届いたんだ、やるじゃねえか!」

「確かに。燃焼時間を見るに30mってところか。帝都式の詠唱は精霊術でも有効なのか?」

「わかりません……でも、学校で魔法を使っていた時よりも遠くに飛ばせました!」

 ナナはとても嬉しそうだ。


 形を持たせたり、遠くに飛ばすといった要素を加えるのは結構難しい。

 具体的なイメージを持つことと、術式を組んで正しく魔法を発動させることとは、全く別の話だ。

 ナナはしっかりと具体的なイメージを浮かべながらも、術式を組むことを精霊に任せることで、自分自身で組むよりも良い結果を出せた、ということなのだろう。


「今回は俺が。サンダーボルト!」

 今度はウィンダが攻撃した。雷杖『アルゲス』が光り、電撃がビーホークを捕らえる。羽根が飛び散らせた1体のビーホークが、煙を立てながら墜落する。


「……!」

 ナナがハッとする。何かに気付いたか?いや、ウィンダの手際に驚いただけか。


 残りの2体は、逃亡せず上空に止まっている。警戒を強めたのか、高度を上げたようだ。

「うし!どうだナナ!サンダーボルトを当てるコツは、敵までのルートにチェックポイントをつけてやることだ。途中にマナを置いて電撃を誘導してやれば、ちゃんと当たんだよ」

「マナは燃やす前の燃料のようなものだ。うまく設置すれば、爆弾の火薬や導火線のように扱うこともできる。高等技術ではあるが、長距離魔法には必要不可欠なスキルだな」


 ウィンダの説明に補足した。

 マナ結晶とも呼ばれる魔石を投げて誘爆させることで、魔法の威力を強化するテクニックがあるが、自分のマナを飛ばすことでも同じことができる。

 弱点は、未加工のマナは置き場所を考えないと自分以外に回収されて勝手に消費されることがある……という点か。あとはあまり時間をかけると、マナが見える相手には軌跡を悟られる場合がある。


 ウィンダが俺の補足にレスポンスする。

「遠くで炸裂して欲しいのに、手元でボウボウ燃えてちゃ無駄遣いだしなぁ!だがトーマス、覚えたての最初期にいうことじゃねえと思うが?」

「それはお前こそ……いや、だがナナはこれで頭が切れるしイメージセンスもある。説明すればするだけ取り込んでいくと思うぞ」

「毎度すごい期待を寄せられるので、逆にちょっと重く感じるんですが……」


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


 そうして4日目の仕事が終了する。チャルコに戻り、ギルドで精算手続きをしていると、ピッチ支部長がやってきた。

「おうトーマス君、待ってたぜ。また一人仲間が増えたみたいだな」

「ああ、ピッチさん、こんばんは。……何か御用ですか?」

 待ってた、とはなんだろうかと考えながら、とりあえず聞いてみる。


 問いかけを受けて、ピッチは「あちゃー」と言いながら額に手を当てる。

「ああ、まだ受付から聞いてなかったか。すまんすまん。ナナ君の昇級の件だ」

 ナナとウィンダがピクリと反応する。

 ナナのランクは現在E級。E級からC級への飛び級をしたくて、昇級試験の予約をしていたのだ。日程等は保留にされていたのだが、それが決まったということか?


 ピッチはナナを指差し、続けて言う。

「2日後に出発するドラゴン狩りに参加するって感じでどうだ?C級、プラタスタラクタ。標高3600の高山にどうしてこんな生物が、って思っちゃうような、鍾乳石の鎧を持つドラゴンだぜ。どうかな、やってみちゃう?」

「やります!!」

 ナナが答える。気持ちのいい即答だった。

 次の獲物は、プラタスタラクタに決まった。

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