脇差『標燐』
「とりあえず、装備を整えよう」
「装備?」
朝食を運ぶトーマスが話を切り出す。先に席についていたナナは壁に立てかけてある打刀をチラと流し見て、眉を顰める。
私の装備のどこが悪い?と言いたげだ。
日付変わって、今日は2日目の朝だ。
昨晩、ナナが銀サソリを倒した後はそのまま帰路につき、トーマスはナナを自宅に泊まらせた。ナナはひと月振りのベッドに感激していたな。代わりにトーマスは即席の藁ベッドで寝ることになった。そういえばあまり体臭は気にならなかったが、野宿している間、湯浴みなどはしていたのだろうか?トーマスも疲弊していたのですぐに眠ってしまったが、ちゃんと確認してから寝かせればよかった。それはともかく。
「ああ、まあ聞けよ。昨日の戦闘を見たけど、その刀は正直お前の手に余るだろ。体格もまだ小さいのに、持ってる刀が長すぎる」
「…………」
居心地が悪くなったのか、ナナはカップを手に取りヤギミルクにちびちびと口をつける。自分の実力不足は自覚しているようだ。昨日の銀サソリ戦での武器の扱い方は悲惨だった。そのまま刀を折るんじゃないかというくらいの勢いで打ち付けていたし。とても良い刀に見えるのに、コレでは刀が可愛そうだ。
「でも、この打刀はビーチェが」
「気に入ってるのも分かるし、大事なものだってのも分かる。だが今の使い方じゃへし折ってしまうぞ。刀の訓練は」
「……したことない」
「だろうなぁ……他の武器は」
「……ない……です」
「……刀でも、他の武器種でもいいが、刃物を使うならもっと短くて扱いやすい武器から戦闘に慣れていった方がいい。今はそいつを大事にしまっておいて、扱えるようになってから抜いてやるべきだ」
「……はい……」
しょんぼりとした様子を見せるナナ。
しかし、今言ったことは間違っていないはずだ。成長期に変に重いものを持たせると、変な姿勢の癖がつくというのも聞いたことがある。そもそも正しい姿勢なんてものもトーマスは知らないが。
「防具は……?」
「うーん、ナナの防具は一旦据え置きかなぁ……。そのまま使うのも悪くないと思う」
あの羽織袴の性能が冒険向きなのかどうかはよく分からないが、上等なものであることは窺える。防寒装備や暖房機能のネックレスも持っているし、ナナの防具に関してはそこまで言うことはない。トーマス自身もあまり金を出してやれないし、このままでもいいだろう。
だが武器だけは一旦持ち換えさせるべきだと思った。
「そういうことで、今日は店を回ることにしよう。もし護衛の候補が出なければ、俺がお前を連れて行くことになる。俺の装備は羊狩り用に特注したものだから、冒険用となるとまた話が変わってくるし」
「分かりました。……私、お金あんまり持ってませんが」
「俺が出すから。……冷めるぞ?」
「あっはい、いただきます!」
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こうして2人は武器屋の立ち並ぶ大通りにやってきた。
「おほ〜!めっちゃ色々ありますねえ!!」
「そうだな。行きつけはしばらく先だが、気になるものがあったら寄り道しても大丈夫だ」
「ありがとうございます!今のところは特に……あっ!!アレかっこいい!!あそこの剣から見ましょう!!」
指差しながらナナは見るからに絢爛な高級店へ駆け出す。あの店は……
「ひい〜、460万トロンボス!?なんて凄い逸品なんですッ!!?」
「お客様。商品にお手を触れないようお願いいたします」
「えっ、あ、すみません」
「ナナ。ここは俺らみたいな冒険者が立ち入る店じゃない、出よう。アレは飾剣…儀式用の剣だ。戦うための剣じゃない」
「そうなんですか、すみません」
「見た目はすっごく煌びやかなんだが、なぁ……まあ、あれはあれで、何かの名剣の模倣品なんだろう。ナナ、この辺は冒険者向けじゃない店舗もあるから、確認してから入ろう」
「分かりました!」
ナナが気に入って手に取るのは、長剣や薙刀といったリーチが長いものが多い。実際に使うなら、重量と遠心力に任せて振り回すことになるだろう。そういったタイプの武器も悪くはないが……
トーマスはナナに違う系統の武器の試用も勧めてみる。
まずは定番の短剣。
「普通……ですね」
「まあ、普通……だな」
オーソドックスな分、種類も多すぎて、良し悪しが分からない。手に取るものによって長さも太さも反りも、重心も異なる。トーマスにとって最適なナイフが、ナナにとってそうとは限らないのも頭を悩ませるポイントだ。選択肢が多いというのは、時に無用な葛藤を生むものだとトーマスは感じた。(決して無用ではないが)
変化球を投げてみる。
アイスピッケル、トンファー、そしてマチェット。どれも手入れが容易で取り回しやすいことが利点だ。
ピッケルは力を狙った1点に集中させる攻撃が強力。その分狙いを定めて叩くのには技術が必要になるが、剣で漫然と斬るよりも意識して弱点を突くことが習慣づくはずだ。
トンファーは軽量ながら、盾無しで攻防一体の動きが出来る打撃武器である。本来は格闘技の素養があるものが使う武器だが、素早いナナに意外と適しているかもしれない。
マチェットに関しては自分が愛用していることもあり、教えられることが多いだろう。戦闘以外にも用途が多い。いうほど変化球でもない、ある種王道の武器だとまでトーマスは感じているが、林業の盛んでないチャルコの冒険者たちからは、なかなか賛同を得られない。
その反応はというと……
「おお……!こ、これは……カッコいい……ですね……!!」
トンファーに食いついたようだ。
「おお、構えは様になってるじゃないか……んー、だが」
「えいっ!てりゃ!」
「やっぱ武術家じゃないと使いこなせないというか、威力は出なさそうだな」
「ですよね……うーむ……」
「熟練度次第なんだろうけど、今のスタイルにはあってなさそうだな。…じゃあそろそろ行きつけの店も近いんで、向かうかな」
「よろしくお願いします」
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大通りから少し細路地を抜ける。広場の裏にある少々古い建物の前に着く。
「今までの店より少し古い……プリ、タクト?」
「ああ、プリタクト。老舗だ」
ドアを引くのに合わせてドアベルがカランコロンと鳴る。店内から声がする。
「いらっしゃい。よく来たねえトーマスくん。ひと月振りかなぁ。武器、刃こぼれしちゃった?」
声の主、白髪で眼鏡をかけた痩せぎすの男性がカウンターから出てくる。身長は160cmほどか。それなりに年齢を重ねているのが動きの端々から見て取れる。
「こんにちは、ペコさん。お変わりないようで。今日はこの子の装備を整えに」
あの男性はペコと言うのか。店主だろうか?ナナは挨拶をする。
「初めまして、ナナ・ユー・ブラッドタイガーです。よろしくお願いします」
「前から言おうと思っていたが、冒険者は基本フルネームで自己紹介しないぞ。よそは知らんが」
「いや、結構。礼儀のできた子じゃないか。トーマスくんこんな子連れてどうしちゃったの?ま、座って座って」
カウンターに腰掛けて、早速本題に入る。
「この子はちょっと訳ありでして。育てるなんてもんじゃないけど、ちょっと面倒を見ようかと」
「ほう、トーマスくんが面倒見てるなら安心だねぇ。…今の装備も結構凄いねコレ。で、予算はどれくらいだい?」
「そうですねえ……今後どのくらい出費が嵩むか分からないけど……とりあえず20万までくらいですかね。今の武器がちょっと取り回しにくそうに見えたもんで、武器の方に予算を回したいです」
「なるほどね。承りました。後々またヒアリングさせてもらうけど、一旦待っててちょーだいな。好きに見てって」
「はい、よろしくお願いします」
ペコはバックヤードに引っ込んでしまった。ナナに合いそうな武器を見繕っているのだろう。
ナナは店内を物色する。ここまで見てきた店と比べ、見た目は大きく変わらないように思うが、なんとなく、洗練されているような印象を受ける。少なくとも量産されたものではないのが素人目にも分かった。老舗かあ。
こちらの壁にかかっているのは、槍と斧をくっつけたような武器や、看板みたいに分厚い大剣などだ。只人には扱いにくそうな大型武器が飾られている。
その隣の壁には様々な素材でできた盾がかけられている。と、奥から声がする。
「やっぱり定番の短剣がいいと思うんだけど、どうかなぁ?」
「ペコさんがいいと思うものでお願いします!短剣は私的にも第一候補でしたが、他所で見てもさっぱりで」
「分かったよ〜!そういえばナナちゃんの精霊適性はなんだい?」
聞きなれない単語。今、何を聞かれたのかな?
「精霊適性……ですか?」
「なんだ、調べてないのか。ってことは、魔術師ギルドにも行ってないのかい?トーマスくん」
「ええ、本人からは魔法を使うって聞かなかったもので」
「そうかー、じゃあここで調べていこうか」
奥から数本のナイフを持って、ペコが現れた。精霊適性を調べる?どういうことだろう。
「そうですね、じゃあお願いします」
「……精霊適性って何ですか?魔法と関係があるんですか?」
そう質問する間に、ペコは何やら魔石とガラスの筒が埋め込まれた計器盤を取り出してカウンターに置いた。
「ナナちゃんは精霊信仰って知ってる?」
「精霊信仰、ですか。聞いたことだけはあります……魔法の力を授ける大精霊の話。でもそんな信仰、帝都じゃ御伽噺だって笑いものにされますよ」
「精霊はねぇ、居るよ」
ゆったりとした口調で、ペコが断定する。なんというか、凄みがある。ナナは身震いした。
「魔術適性のことでしたら、士官学校で確認しています。私は火炎系魔術の適性だけが、|かろうじてあると」
「士官学校……もしかして帝都の教えかな。そっちの出身なのね?……んー。まあ説明というか、解釈の仕方の違いではあるんだけどねぇ、こう力を発揮できないんじゃ間違った教えってことになるのかな。まあいいや、プレートに手を当てて」
「はい」
言われた通りに、ナナはプレートに手を当てる。
ペコがプレートに埋め込まれた術式を起動したのか、中でマナが動き始めたのがわかる。
「力を込めて」
言われた通りに力を込める。プレートから力を……マナを吸われている感覚がある。
魔石が光り、ガラスの筒に青い線が走る。とても綺麗だ。
「おっ、青も出るのか!こりゃ太い線だねぇ」
ペコは少し驚いている様子だ。
「それっていいことですか?」
「うん、いいことだよぉ。君のマナにたくさんの精霊が集まってる証拠だ」
「精霊を可視化しているってことですか」
「おお、カンが鋭いねぇ」
ペコがナナを褒める。ここまでしばらく口をつぐんでいたトーマスが補足する。
「ナナが学んできた魔術体系とは異なるかもしれないが…、西方では、土・水・風・火、4つのマナ属性で現象を解釈する」
「たった4属性ですかぁ?学校で習うのは12属性なんですけど」
とんでもない話だ。西方と帝都で話が違いすぎるよ。そもそも4属性だけだなんて、きちんと分類が済んでいないままに、ごちゃ混ぜになっているだけなんじゃないかな。
そう切り捨ててしまいたいナナだったが、ペコもトーマスも真剣な表情で話すものだから、口には出せない。
ガラスの筒が黄色く光る。
先ほどの青い光と比べると、随分と朧げに見える。線も出ていない。
あまりマナを吸われている感じもしない。
「生物はみなマナを持っているが……これを精霊に与え、食べさせることで超自然能力を顕現させる…こっちではそのことを魔法という」
トーマスが続けて説明する。今度はペコが補足する。
「そっちの理論と食い違うなら、もう一つ別の表現を使って区別した方が良さそうだねぇ。今の話は、他の地域では精霊術とも呼ばれているんだ」
「精霊術……」
ペコ曰く、帝国が魔法と呼ぶものは、術者が自分のマナを使って現象を引き起こす技術なのだそうだ。実際には、無意識に精霊の力を借りていることもあるようなのだが、教育上、表向きには精霊の存在を否定している……
ガラスの筒が緑に光る。線は見えない。
青・黄・緑…マナは4属性といったが、この色はそれぞれの属性を表しているのかもしれない。
「えっと、つまり、魔法は、自分で直接発動するものだけど、精霊術は、精霊の力を借りるものだから、ちょっとだけ違う?みたいな感じですか?」
「理解力があるね。というより、頭が柔らかいというべきかなぁ?」
ペコが何やら褒めてくれた。にしても、頭が柔らかい、か。
「一つの流派の教えに固執すると、見えるものも見えなくなるよ」という薬学の教師の言葉がふっとよぎった。
「どちらも自分のマナを消費する点では同じなんだけどねぇ。術式の組み立てを自力で行う能力、これが帝国のいう魔法の才能ってやつさぁ。おそらく、帝都の政策として20年ほど前から機械化を推進している影響なんだろう。魔法陣方式では精霊の力を借りられないからね。精霊に頼らずに、自分で制御術式を読み書きできる人材を大量に育てたいってところかなぁ」
「帝都にそんな狙いが……しかし精霊の存在を隠すとは、随分とひどい教育だ」
「きっと回りくどい教え方をしてるんだろうねぇ。教える側もよく分かってないのかも。ほ〜ら、この子の才能も見逃しちゃうくらいだ」
「……!?うわあああああああ!?」
グン、と腕を引っ張られる感覚。
ガラスの筒が赤く光り、いや、眩いほどに輝き始める。
さっきの青色の光とは比べ物にならない。
ものすごい勢いでマナが吸われている。命まで持っていかれるのではないか、という恐怖さえ生まれるほどだ。
「う〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
「これは……ペコさん!」
「ねえ?死んじゃう!死んじゃう!?」
「死にはしないさぁ、だっはっは!すまんすまん、切るよぉ〜」
ペコが笑い、赤い光が消えた。
「だはぁ……はぁああ…………」
本当に死んでしまうかと思った。
ペコが再び笑いかける。
「ふう、あっはは。さて、柔らか脳みそのナナちゃんなら、今のがどういう意味かぁ、もう分かったかもしれないね」
「はぁ……はぁ…………はい」
「青色は水属性。黄色は土属性。緑色は風属性。赤色は火属性だよ。つまり?」
「……んっ、はぁ…………私は水と火、特に火属性の高い精霊適性がある、と」
「それもびっくりするくらい、今まで見たことないレベルの、ね」
「それはまた……すごいな……」
トーマスも唖然としている。
私も自分にこんな力があるとは思っていなかった。てっきり、ほんの少しだけ炎の基礎魔法が使えるだけだと思っていたのに、自分の中にこんな力が眠っていたなんて。自分だけの力、つまり帝都式の魔法ではこの大量のマナを使うことはできないけど、精霊を介することで、もっと多くのことができるようになるってことだよね。
ペコを見る。彼の額や頬にも汗が伝い、動揺の色が見える。が、すぐに汗を拭き、プレートを片付け、今度はカウンターにナイフを並べる、その一連の動作はスムーズで、ずいぶん淡々としていた。
「ナナちゃんには短剣がオススメだと思うんだけど……一旦、さっき見繕ったこのナイフでも触って待っててぇ。似たような系統で付加武器を持ってくるよ。この測定結果だと話が変わってくるね。……んー、20万かぁ……」
「すみません、付加付きだと20万じゃ収まりませんよね。50万くらいまでなら考えますので、一旦この子に合いそうなのをお願いします」
「ええっ、トーマスさん!!破産しないですか!?私の装備のためにそんな……」
「コレでも稼ぎはある。ただ、流石にくれてはやれんよ……貸出ってことにするから、帝都に着いたら返してくれ」
「そんな……」
そんな大金叩いて自分のためにプレゼントをするのか、この人は!と一瞬思った自分が恥ずかしい。ナナの感情は激しく乱高下した。
気を紛らすためナイフを手に取る。30〜45cmほどの大型ナイフが並んでおり、反りの有無などそれぞれの特徴はあれど、どれもナナにとって相性の良さそうなものに見えた。試しに振ってもみたが、他の店の商品より数段手に馴染む感覚がある。
「コレはどうかな?」
再び出てきたペコが持ってきたのは…
「…刀?」
「刀ですか!?」
ナナはカウンターに飛び戻って、ペコが持ってきたその刀を覗き込んだ。
刀?
私の知っている刀と違う。
初めに連想したのは、ヒスプリスクで見た紫陽花。淡い藍色、紫、白の花が景色一面を覆い尽くす。ナノやビーチェと一緒に見た景色。追体験。
それは藍色の鞘だった。何かのモンスターの甲殻を加工して作ったことが窺える。
ペコが刀を抜く。刀身が顕になる。
白銀の世界。雪の隙間からわずかに覗く、岩肌の冴えるような黒。刺すような朝日。照り返す稜線。プラタ山脈のようだった。
柄には紅玉が埋め込まれている。毎日、毎日、死別したキャラバンの面々のことを思い出しながら見つめていた、ネックレスと同じ。赤い、宝石。
「脇差と言う。東方ではメインの刀剣と共に、このナイフを携帯するらしい」
「サブウエポンか。長さも丁度いいですね。これに付加が?」
「うん。鍛師によると、思い戸惑う時にこの脇差が進むべき道を示すとか」
「それはなんとも……信じていいものか分からんというか、そうなってほしいものだが」
ペコはなんだか胡散臭いことを言っているが、作り手としてもそうなってほしいという願いを込めて打った1本なのだろう。それだけの熱量というか、気迫というか、執念のようなものを感じた。ナナも、この刀なら、本当にそのような力も持っているだろうと直感で信じられた。
「見て分かるかもだけど、火属性だ。蒼竜ユール・タロスの素材を刀身・鞘、それと柄や鍔にも惜しみなく使っているからね。髄液に浸したとかって。ナナちゃんのマナを流し込んだら燃え上がっちゃうよ」
「いや、見て分かりませんよ……蒼竜なんて見たことありませんし……」
「この刀……すごい……」
「武器としての性能は保証しよう。こいつは正真正銘の業物だよぉ。銘は『標燐』だとさ」
「『標燐』……標の燐火……」
「これしか、有り得ません」
「え?」
「手に取っても、いいですか」
「どうぞぉ」
ナナは、その脇差『標燐』の鞘を掴む。
触れた瞬間、光った、気がした。柄の紅玉を覗く。まるで目を合わせているような…こちらを覗き返されているような、そんな感覚だ。
刀を抜いて振ってみる。重いようでいて、軽い。手に持っているという実感すら忘れ、初めからそういう形の腕であったと錯覚するような、不思議な感覚だった。
ペコは拍手をしながら、少し涙ぐんでいる。どうしたんだろう。
「うん、うん。この子にもやっと持ち主が見つかったみたいだね。そいつは貰ってくれよ、もうお代はいらないからさぁ」
「えっ、ちょっと、ペコさん!?」
トーマスはペコの発言に驚愕している。だがもうそんな些細なことはどうでも良い。
ナナはその脇差に微笑みかける。
「……『標燐』、よろしくね」
一生の伴侶に出会ったと、若くも齢12にして確信した。