世界一かわいくてかっこいい婚約者様 ③
バタバタとした日々が目まぐるしく過ぎていきます。
後半は記憶が曖昧になるほど本当に忙しかったですね……。
あとは、緊張でいろいろと吹き飛んでしまうといいますか。
「いよいよ、ハナ様のご家族がご到着するねぇ」
「い、言わないでくださいよぉ……はぁ、家族に会うのに緊張する日がくるなんて!」
大好きな家族に久しぶりに会えるのはとても楽しみですし、嬉しい気持ちでいっぱいです。
執事のアルバートだけは家の留守を守るため欠席ですが、両親とメイドのパメラは来てくれるとのこと。
……手紙の文字が少しだけ震えていましたから、今もエドウィン様が怖いのでしょう。
それでも勇気を出して私のために来てくれるということが本当に嬉しいのです。
と同時に! だからこそ余計にエドウィン様への誤解を解きたいっ!
「大丈夫さね。ハナ様に触れている間のエドウィン様は魔圧をほとんど感じない。そうなりゃ普通の人と同じさ。恐怖なんて感じないだろうよ」
「それはわかっていますが……それでも、やっぱり緊張します」
本当にこのかわいらしい人が髑髏領主様? ってなると思うんです。
そうなると一度手を離す必要があって、結果どうなるかと言うと……どうしてもあの恐怖を再び感じさせてしまうということ。
怖がらせるのは嫌ですが、信じてもらえないままなのはもっと嫌で……!
とにかく! 私は家族も含め、みんな笑顔で結婚式当日を迎えたい!!
「ハナ、そろそろ……どうした?」
「いつもの気にしすぎ病さね」
ゾイと話しながら小刻みに震えている時、エドウィン様が呼びに来てくださいました。
ついに来た、という気持ちから軽くぴょんと飛び上がってしまったので心配されてしまいましたね……ゾイのフォローが身に沁みます。
エドウィン様はそんな私の様子を見て困ったように微笑むと、私に歩み寄ってきました。
「師団の魔法偵察小隊から連絡があった。もう少しで馬車が領内に入るそうだ」
「はわわわ」
「屋敷の外で出迎えよう。二人で」
半分パニックになっている私にそっと手を差し伸べてくださったエドウィン様の手を取ると、その温かさに少しだけ落ち着きを取り戻すことができました。
よ、よぉし、いよいよですね! 絶対に家族にわかってもらうのですからね!
「は、はい!」
「ははっ、気合いが入りすぎだな」
おっと、少し張り切りすぎたようです。ふぅ、落ち着きましょうね、私。
でも、エドウィン様に笑ってもらえてより緊張が和らぎましたよ。どっしりと構えていらっしゃるお姿を見ると、大人の男性なのだなぁと改めて思いますね。
こんなにもかわいいのにしっかり者の旦那様……! ああ、素敵っ!
「こりゃ、結婚式当日が思いやられるね」
ゾイ、それは言わないお約束ですよ! 私が一番そう思っていますからね……!
※
「は、ハナっ!」
「お父様、お母様! パメラも!」
あれほど緊張していたのは一体なんだったのかというほど、家族の顔を見た瞬間、思わず笑顔がこぼれてしまいました。
ギャレック領ではとてもよくしてもらっていますし、寂しさなんて感じることもありませんでしたが……やはり家族の顔を見ると嬉しくなってしまいますね。同時に、少しだけ泣きそうになってしまいました。
やっぱり、どこかで寂しがっていたのかもしれませんね。ふふ、お父様もお母様もパメラもみんな元気そうでなによりです。
「長旅でお疲れでしょう? まずはゆっくり部屋で休んでください」
「ああ、ありがとう。だ、だが……や、やややや屋敷の主人に挨拶もなしに、や、休むなんて、ででででできないさ」
「そ、そそそそうよ、ハナ。さぁ、すぐにでも案内してくださいな! へ、辺境伯様の下にっ」
両親とパメラの小刻みな震えがすごいですね……? 先ほどまで私も同じような状態だったのでなんとも言えませんが。
「落ち着いてください。エドウィン様なら先ほどからずっと私の隣にいらっしゃいます! ほら!」
私はそう言いながらエドウィン様と繋いだままの手をパッと上げると、両親とパメラはピタリと動きを止めました。
その隙にエドウィン様が一歩前に出て軽く頭を下げると、真っ直ぐ私の家族を見つめながら口を開きます。
「ようこそおいでくださいました。以前お会いした時は仮面の姿でしたので改めまして。私がこのギャレック領領主、エドウィン・ギャレックです」
わぁ、さすがはエドウィン様。堂々としたお声と振る舞いに惚れ惚れしてしまいます!
ですが、繋いだ手の力が僅かに込められたことに気づき、彼も緊張しているのだということがわかりました。
私のために、私の家族のためにこうしてがんばってくださっているのだと思うと……ときめきが止まりません!
ですが、うっとりしている場合ではないようです。
「へ、あ……えっ」
「……ぁ、え、え?」
「は、わ……」
お父様もお母様もパメラも、みな同じように口を開けたまま言葉にならない声を発していますから。
ああ、思考が停止していますね……?
と、とりあえず、応接間へ! 応接間へご案内しましょう! そこからが勝負ですよぉ!




