世界一かわいくてかっこいい婚約者様 ②
実家から招待状の返事が届きました。
さっさと開封すればいいのに、私は手紙を睨みつけながらそれができずにいます。
「……あたしが確認してやろうか?」
「いえっ! これは私が確認しなきゃいけないものなのでっ」
ゾイとのこのようなやり取りももう何度目でしょう。ため息を吐きたいのをぐっと堪えてくれているのがわかりますよ? ごめんなさい、ゾイ。
でも、だって。
「うぅ、もし欠席の連絡だったらどうしましょう!?」
家族には招待状を送ったら絶対に出席してね、と、ギャレック領に来る前も、手紙でも何度も言ってはいましたが、いざその日が来たとなったらやっぱりごめんね、と言われるかもしれない……!
あれだけエドウィン様を怖がっていましたから、恐怖を思い出して……という可能性も大いにあります。
でもそうだったら私は……かなり落ち込むでしょう。想像だけでもう死にそうですから。
家族にわかってもらいたい。エドウィン様がどれだけ素敵な方で、私がどれだけ幸せか。
その機会がまさしく結婚式当日なのです。その場に家族がいなければ意味がなく……!
「ええい、まどろっこしいね!」
「ああっ」
こうしてうだうだ悩んでいると、ついに痺れを切らしたゾイに手紙を取り上げられてしまいました。
迷いのない手つきでゾイが封筒から手紙を取り出し、ささっと目を通していきます。私はその様子を両手で顔を隠し、指の隙間からちらちら覗いていました。
「……はいよ。読んでみな」
「その反応はどっちです!? 判断がつかない表情ですよ、ゾイ!」
「気になるかい? ならさっさと目を通す!」
「はいぃ」
でも、そうですよね。ゾイくらい強引な手段にでないと私は永遠に返事を読めずにいたでしょう。
ええい、勇気を出すのですよ、ハナ・ウォルターズ!
私は思い切って手紙に目を向けました。
「……」
「ご家族はちゃあんと、ハナ様を愛していらっしゃるみたいだね」
「しゅ、出席って」
「そうだねぇ。しっかりもてなして差し上げないと」
じわじわと目に涙が浮かんできます。
私は困ったように微笑むゾイを泣きそうになりながら見上げてから、勢いよく部屋を飛び出しました。
こうしてはいられません。今すぐエドウィン様にお知らせしなくてはーっ!!
「ハナ!? ど、どうしたんだ?」
「エドウィン様、これ、これ見てくださいぃ!!」
ノックもそこそこにエドウィン様の執務室に飛び込むと、当然ながら室内にいた人たち全員から驚いた顔を向けられました。
その頃にはもはや私は号泣状態だったので、それも驚かせる原因だったかもしれません、ごめんなさい。
エドウィン様は慌てて私に駆け寄り、抱き締めてくださいました。ああ、落ち着きます。ドキドキもしますが。
えぐえぐ泣きながら両親からの手紙を差し出すと、エドウィン様が安心したようほっと息を吐くのがわかりました。
その後、エドウィン様がなにか合図を出したのでしょう、室内にいらっしゃったお仕事仲間の方々が静かに退室していきました。どことなく生温い視線を向けられた気がします。
……冷静になってきたので、急に恥ずかしくなってきましたね?
まずいです、顔をあげられません。かなり大げさに騒いでしまいました。
「うぅ、ご、ごめんなさい、取り乱して」
「いいんだ。それほどハナはこの結果を待ち望んでいたのだから」
「でも、お仕事の邪魔をするほどのことではありませんでしたぁ……! は、恥ずかしいです」
その後、私は恥ずかしさを誤魔化すように両親が来たあとの計画をつらつらと話し続けました。
「というわけで、必ずや家族にはわかってもらいますから! エドウィン様はなにも心配しないで……」
そこまで告げて顔を上げた時、エドウィン様の人差し指が私の唇に触れました。
ドキッとしたのも束の間、エドウィン様は困ったように、それでいてとても優しい目で私を見つめていて。
き、危険です。そのお顔は死人が出ますよ! 私ですが!
「ハナ、一人で抱え込まないでほしい。君のご家族の誤解は俺も解いておきたいと思っていたんだ」
「え……? いえいえっ、だって失礼な態度をとった家族の責任は私がっ」
「ハナが気遣ってくれる気持ちは本当に嬉しい。君の考えもよくわかった。だからこそ、聞いてほしい」
穏やかな声色と真剣な眼差し。
おかげで私はようやく落ち着いて小さくこくりと頷きます。
「何かに怯えることは悪いことか?」
「いえ、それは。仕方のないこと、です」
「そうだな。だからご両親はなにも悪くない。そして俺も悪くない。どうだ?」
「はい! エドウィン様だって何も悪くないです!」
食い気味に返事をすると、エドウィン様はははっ、と声を出して笑いながら頭を撫でてくださいました。
なんだか子ども扱いされている気分ですがとても嬉しいのでされるがままにしています。えへへ。
「ご両親は俺について誤解をしているのだから、俺が説得すべきだろう。ハナはこれまでだってたくさんがんばってくれていた。だから、今度は俺の番だ」
「エドウィン様……で、でも、今だってすごくお忙しいでしょう? あまりご負担は」
「ハナ」
頭を撫でていた手が頬にするりと移動しました。
それだけで心拍数が速まり、顔が熱くなってしまいます。
エドウィン様は、私を黙らせるのがお上手です。
「ハナとの結婚やご家族との関係は、なによりも大切なことだ。どれだけ忙しかろうが、最優先で予定を組むつもりだよ」
ああ、そんな至近距離で微笑みながら優しい言葉をかけてくださるなんて。
さっきとは違った涙が溢れてしまいそうです。泣き虫ですね、私は。
「俺たちは夫婦になる。二人のことなんだ、二人で決めないか?」
好きが溢れてどうしようもなくなってしまいました。
私はたまらずギュッとエドウィン様に抱きつきます。
「~~~っ、エドウィン様、大好きですっ」
「っ! あ、あまり不意打ちでかわいいことをしないでくれ」
少しだけ慌てた様子のエドウィン様でしたが、すぐに抱き締め返してくれました。
それからそっと私の顎に手を添えます。自然と顔が上を向きました。
「俺もハナが好きだ。世界中の誰よりも」
「はわ……」
「まだ、ダメか?」
「も、もう少しだけ、我慢を……!」
「わかった。照れ屋な恋人だな」
きっとこのまま口づけしようとしてくださったのでしょう。
嫌ではないのです! 嫌では!
ただ、気を失ってしまうのがもったいないだけですからね!!




